【スカルプターズ・ムービー】物語と周囲のキャラを惹き立てる、綾野剛という存在――『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』の現場

テキスト・神武団四郎

三池崇史監督作『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』が公開中だ。20年前に起きた実際の事件を題材にしたルポルタージュを映画化した本作は、殺人教師と報道された小学校教師の日々を描いた衝撃作。誰もが被害者にも加害者にもなりうる怖さを描くため、あえて過度な多算を避けたという三池監督は、キャストたちとどうこの物語を組み立てていったのか、その舞台裏を聞いた。

でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男

絶賛上映中!
配給:東映 ©2007 福田ますみ/新潮社 ©2025「でっちあげ」製作委員会

STORY

小学校教諭の薮下誠一(綾野剛)は、担任をしている児童の母親・氷室律子(柴咲コウ)からとつぜん息子が体罰を受けたと告発された。それを嗅ぎつけた週刊誌記者の鳴海三千彦(亀梨和也)は、その凄惨な内容を知り実名報道に踏み切った。殺人教師としてマスコミの標的となった薮下は、裁判で全てを否認するが――。

『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』三池崇史監督インタビュー

――実話ベースの本作の製作にあたりどのようなことを意識されたのでしょうか?

まずは原作者である福田ますみさんの思いはどこにあったのか、ということですね。福田さんのルポルタージュを読んだ時、優しさみたいなものを感じたんです。福田さんは誰かの罪を糾弾しているわけではない。糾弾すべきは自分を「普通の人間」だと思い込んでいる周囲の人たちの意識で、彼らが無意識にでっちあげに加担をしている。そこに何か、怖さというか、孤独感を感じましたね。

――リアルとフィクション比重について意識はされた部分はありますか?

脚本上も演出上も、映画としてのエンターテインメント性をあげていません。映画的演出で刺激が強すぎると、どうしてもフィクションになってしまう。それだと20年前の事件が、単なるネタになってしまいます。エンタメ性を排したことで被害者になる恐怖と、自分も加害者側になり得る、という意識の両方を感じてもらえるんじゃないか。
今回、モデルになった薮下先生や律子さんたちが自分の中にいて、彼らと常に対話しながら一緒に作った作品でもあるんです。だから彼らがこの作品をもし見てくれたら、いつかどこかでお会いしたら、どんなふうに感じたか聞いてみたいですね。

――薮下先生に綾野剛さんをキャスティングされました。

『クローズZERO II 』の時は髪が長く無口で傘をさした異様なキャラクターで、ふつうのヤンキーものにはない怖さや存在感で周りのキャラクターをぐっと魅力的にしてくれました。役者というのは上手いというだけでなく、物語や周りの人たちの魅力を引き立てることも評価に繋がると思うんです。喋らない異様な人物だった前回に対して、今回は語らざるを得ない人物を演じてもらいましたが、飾ることなく誠実な言葉で薮下を存在させていた。俳優として難しい作業を、しっかりやれているなと思いました。普通は朗々としゃべりながら涙を流しながら、聞く人の涙を誘うような名演技をしたいわけです。そういう欲望を抑えつつ、最終的にどう繋がっていくのかわからない中、あの芝居を通せるところに、綾野剛が「綾野剛」という今の立ち位置をしっかり作れた理由がわかりました。


下校中に待ち伏せして体罰を与える薮下誠一。

――役作りにおいて、綾野さんと何か話されたことはありますか?

薮下の人生やキャラがどうだということよりも、原作を突き詰めていく作業でした。原作で薮下に関する描写はあって、それってどういう人?みたいな感じ(笑)。だからビジュアルや気配を真似るより、福田さんがルポに書かなかった奥行きを含めて探っていくという。それは我々作る者にとっても、綾野剛にとっても自由なんですよ。会ったこともない人間を、福田さんの印象を通して自分たちで作り上げていきました。

薮下がどういう人物かを考えるとき、生まれ育った時代も感性も違う僕と綾野剛は全てが同意には至らないんです。それをすり合わせると、妥協の産物にしかならない。演出する側と演じる側とで折り合えばいいわけなので、あとは自由というか、要は現場でやってみないとわからないでいいと思うんです。舞台のように稽古を繰り返すとテーマは浮き彫りになってきますが、どうしても「こうなんだ」と言いたいことが主眼になってしまう。

 


生徒を自殺にまで追い込む殺人教師と生徒思いの優しくまじめな新任教師を演じ分けた綾野剛は圧巻。

 

――先ほどの「観客に感じてもらう映画」にはならないという。

謎解きでもなく、人の道はこうあるべきだと説くわけでもなく、自分が加害者にも被害者になりうる物語をどう感じますか、ということが我々のやるべきことだと思っているので。多様性を重視しようという流れの中で、学校のあり方も変わってきていて、先生と生徒の立場が逆転することもあります。その結果、本当は指導者になるべき人たちが、教職に魅力を感じなくなっているのが現実だと思います。

ただ、僕は映画の中で今の教育制度を責めたいわけではありません。20年前の事件が約5年後にルポになり、さらに15年後に今回、映画としてある程度客観的に描けるようになってきた。だから誰かを責めるのではなく、できるだけ淡々と伝えていく。そうすることで観ているうちに「いくらなんでもありえないよね」「こんな教師いるわけないだろ」と嘘くささが見えてくる。でも20年前には、断片的な情報を繋ぎ合わせた“でっちあげ”をみんな信じていたんですよ。気づいていた報道側の方たちもいたそうですが、その声も届かなければないものと同じです。その怖さが、やっとエンターテインメントとして解放されるという。本当はこれ、三池崇史がやっちゃダメな映画なんですよ。あいつのやってること、絶対嘘だぜって思われちゃうから(笑)。

 

――薮下を糾弾する亀梨和也さんが演じた週刊誌記者・鳴海は暴露系が注目を浴びる現在に通じるキャラクターですね。

亀梨さんは若い頃から本当の自分とアイドルとしての自分という二面性を持っていて、俳優、テレビのキャスター、舞台と全然違う彼がいたりもする。その中で世の中から間違って見られたこともあるから、薮下と同じ体験もしていると思うんです。

鳴海というキャラクターは、当時誰が読んでも「この記事おかしいよね」と思うくらい強烈な記事を書いた人物で、亀梨さんも演じる前にそれを読んでいます。でも決して彼を非難せず「そういう仕事ですから」とリスペクトすべき点に集中して演じていました。20年前というと、SNS時代の走りというか2ちゃんねるが流行りだした頃。噂話のサイクルが加速して、糾弾すべき人間がどんどん現れるから、それが本当なのかもわからない。その中で建前だけのとんでもない人物だと思わせる芝居もできますが、それを選ばなかったのは鳴海を人として理解していたからでしょう。子どもの頃から大人の世界で生きてきた人間らしい台本の読み方だなと、そこは面白かったですね。


実名記事を発表し薮下の暮らしを一変させる週刊誌記者・鳴海三千彦。亀梨和也は正義の名のもと容赦ない取材を続ける鳴海を職業人として熱演した。

――キャラクターとしては柴咲コウさんの律子も強烈でした。

この話が自分の中でいちばん怖かったのは、なぜこんなことが起きたのか原因がわからないこと。でもすごくリアリティは感じました。律子がなぜこの先生を叩くべきだと思ったのか、その謎を暴いて観客に共感してもらおうとするとステレオタイプなキャラクターに仕上げるしかありません。サイコパスとひと言で言っても度合いも違うしいろんな人間がいるはずで、それ故にサイコパス同士は交わらず、そうじゃない人間たちの中で居場所を作っていく。そんなサイコパスをどう受け入れるのか?多様性は大切だし、曖昧なままいろんな人を認め合うのは尊く美しいことだけど、個人的にはそこに怖さを感じます。自分の中で、そんな思いが律子に当てはまったんです。

彼女がなぜ薮下を狙ったのか、原作者の福田さんがあれだけ取材しても見えてはきませんでした。それだけ人は複雑だということです。映画を撮る人間の最大の欠点は、観客に共感してもらうため納得できる行動させてしまいがちなこと。言動が一貫しないと、演出が成立しないと言われてしまう。普段はそんなジレンマを抱えていたので、今回は全くストレスを感じなかったですね。

 


不可解な言動を繰り返す、柴咲コウ演じる律子。

 


彼女の過去のエピソードは映画オリジナルだが、原作を膨らませるなど徹底してフィクション性を排除。

 

――そういう意味ではこの題材は三池監督にぴったりだったという。

登場人物の思惑が交錯するなかで、多少の変化はあるにせよ本質は変わらない人間が好きなんです。こんなことがあったけどいい人にならずに貫いたね、とか、こんなにいい人なんだからこれぐらいのことで悪に染まらないでね、みたいなことです。でもそこは演じる俳優さんの感性に委ね、自分は一緒にまとめていくのではなく、互いの思いを持ったまま現場をどんどん進めていく。それを繋ぎ合わせると不思議なエネルギーが出ることを、今回の映画であらためて確認しました。そういう意味でも非常に楽しい作品でしたね。

 


律子のために終結した550人もの弁護団に、薮下と二人三脚で立ち向かう人権派の弁護士・湯上谷年雄をこれが三池組初参加となる小林薫が好演。

 


弁護団を束ねる敏腕弁護士・大和紀夫を演じるのは北村一輝。他にも事なかれ主義の学校長・段田重春役の光石研、教頭・都築敏明役の大倉孝二ら三池作品でおなじみの顔ぶれが集結した。

Profile

三池崇史

1960年8月24日生まれ、大阪府出身。米国アカデミー会員。CCA所属。
横浜放送映画専門学院(現・日本映画学校)で学び、1991年にビデオ作品で監督デビュー。『新宿黒社会 チャイナ・マフィア戦争』(95)が初の劇場映画となる。Vシネマ、劇場映画問わず数多くの作品を演出。『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(07)、『十三人の刺客』(10)でヴェネチア国際映画祭、『一命』(11)と『藁の楯』(13)でカンヌ国際映画祭と、それぞれコンペティション部門に選出され、海外でも高い評価を受けている。主な作品に『クローズZERO』シリーズ(07・09)、『ヤッターマン』(09)、『悪の教典』(12)、『土竜の唄』シリーズ(14・16・21)、『初恋』(20)、『怪物の木こり』(23)などがある。

CAST

綾野剛 柴咲コウ
亀梨和也 / 大倉孝二 小澤征悦 髙嶋政宏 迫田孝也
安藤玉恵 美村里江 峯村リエ 東野絢香 飯田基祐 三浦綺羅
木村文乃 光石研 北村一輝 / 小林薫

STAFF

監督:三池崇史
原作:福田ますみ『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』(新潮文庫刊)
脚本:森ハヤシ
音楽:遠藤浩二  
主題歌:キタニタツヤ「なくしもの」(Sony Music Labels Inc.)
制作プロダクション:東映東京撮影所 OLM  
制作協力:楽映舎 
製作幹事・配給:東映  
©2007 福田ますみ/新潮社 ©2025「でっちあげ」製作委員会
映倫指定:PG-12

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