【スカルプターズ・ムービー】「このシーンいいね、俺描こうか」原画シーンを青山先生自ら選定、劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』監督・重原克也氏インタビュー!

テキスト・神武団四郎
「名探偵コナン」らしさは残しつつ、シリアスな雰囲気でこれまでにないテイストも楽しめる、劇場版最新作が完成!!本作を担当したのは、『名探偵コナン ゼロの執行人』や『名探偵コナン 黒鉄の魚影(くろがねのサブマリン)』の演出を手がけられた重原克也監督。初監督作品となる劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像(せきがんのフラッシュバック)』に込めた思いや制作裏側を聞いた。
劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』
2025年4月18日(金)公開
©2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
STORY
長野県・八ヶ岳連峰未宝岳(みたからだけ)。長野県警の大和敢助(やまと かんすけ)が雪山で“ある男”を追っていた時、不意に何者かの影が敢助の視界に。気をとられた瞬間、“ある男”が放ったライフル弾が敢助の左眼をかすめ、大きな地響きとともに雪崩が発生。そのまま敢助を飲み込んでしまい―
10 カ月後。国立天文台野辺山の施設研究員が何者かに襲われたという通報を受け、雪崩から奇跡的に生還した敢助と、上原由衣(うえはら ゆい)が現場へ駆けつけた。事情聴取のさなか天文台の巨大パラボラアンテナが動き出すと、 負傷し隻眼となった敢助の左眼がなぜか突如激しく疼きだす…
その夜、毛利探偵事務所に、小五郎の警視庁時代に仲の良い同僚だった“ワニ”と呼ばれる刑事から電話が入った。未宝岳で敢助が巻き込まれた雪崩事故を調査しており、事件ファイルに小五郎の名前があったという。
後日会う約束を交わした小五郎にコナンもついて行くが、待ち合わせ場所に向かっていた途中、突然響き渡った銃声—。
果たせなかった約束と、隻眼に宿った残像。
氷雪吹き荒れる山岳で、白き闇の因縁(ホワイトアウトミステリー)の幕が切って落とされる―
INTERVIEW 重原克也監督
――本作を監督された経緯や監督に決まった時の感想をお聞かせください。
最初に話があったのは演出で参加した『名探偵コナン 黒鉄の魚影(くろがねのサブマリン)』の作業が終わった頃でした。プロデューサーの岡田悠平さんや総作画監督の須藤昌朋さんとお話をしている中で、「まだ再来年の監督が決まっていないのでよかったらどう?」と振られたんです。世間話的な感じだったんで「ちょっと、考えておきます」みたいな受け答えで終わったんですが、あとから「青山剛昌先生の許可が取れたら監督をお願いしたい」と岡田さんたちから正式にお話があって、驚きました。最初はそんな感じでしたね(笑)。
――具体的にどのような作業から入られたのでしょうか?
まずは青山先生に挨拶をしに行きました。その時に脚本の櫻井武晴さんもいらっしゃったので、小学館の方を交えてストーリー作りがはじまりました。それまではふわっとした気持ちでしたが、先生にお会いして気が引き締まり「仕事するぞ」モードに突入しました(笑)。
――すでに30作までの構想が進んでいますが、監督が参加された段階でプロットはどの程度まで固まっていたのですか?
今回の劇場版について青山先生とお話するのは、櫻井さんもこの時がはじめてだったんです。まだ“長野県警の話にしよう”という程度で、「じゃあ長野県警で何をする?」という最初からのスタートでした。そこから原作で数コマだけ描かれた大和敢助警部の過去(原作:59巻「風林火山 迷宮の鎧武者/陰と雷光の決着」)をメインに膨らませることが決まりました。
――全体の作業の流れ、ワークフローを教えてください。
まずは青山先生とのプロット打ち(プロット打ち合わせ)、脚本会議ですね。ここで大筋が決まった後に櫻井さんたちと舞台となる長野県に行ってシナハン(シナリオハンティング)をして、それをフィードバックした脚本を書いてもらいます。青山先生のOKが出たら、僕は絵コンテに入り、キャラデザインを青山先生や須藤さんに発注。いっぽうで全体的なイメージを固めるためコンセプトアーティストのよー清水さんにイメージボートを発注しました。ここまでが24年の2~3月頃で、まだ多くのスタッフが24年公開の『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』の制作中でした。それが終わった4月頃から本格的に実作業がスタートし、そのままノンストップで今年の3月まで続いたというのが大まかな流れです。
――本作が監督デビュー作となりますが、気持ちの部分ではいかがでしたか?
序盤の頃は悩みながらスタッフに提案していた状態で、最初から自信があったわけではありません。特にイメージボードを発注した時点では何も決まっていなかったので、少しずつ形になってからやっと「いける」と確信が持てました。
――今作は推理の部分は本格推理のテイストで、アクションはスリリングな作画で見せ場を作っていました。このあたりは『相棒』などの脚本で知られる櫻井さんの持ち味でもあったのでしょうか?
僕としては櫻井さんの得意分野を活かしたいという意図はありました。ただしミステリー色が強くなると会話の比重が高くなり、コナンらしさといいますかアニメ本来の面白さが生かし切れなくなるんじゃないか、という思いもありました。そこでたとえばゲストキャラにしゃべり方など独特の癖を持たせたり、安室透や風見裕也ら含みのあるキャラクターを配置したり。セリフ量が多いシーンはプラネタリウム会場にするなど映像面で差別化して観る人たちが集中できるよう工夫しました。時には意図的にシリアスな会話にしたり、少し難しい単語が並ぶシーンもありますが、飽きさせないよう映像重視のアニメらしさを意識しました。
――対象年齢を上げたり、広げた部分もあったのですか?
必然的にそうしたほうがいいだろうという思いはありましたね。というのも僕自身『名探偵コナン』に出会い夢中になった小学生の頃は、ストーリーや推理をちゃんと理解していたわけではなかったんです。それでも作品として面白かったので、楽しむことができました。少しくらい難しくても、面白ければ子供たちはついてきてくれるという実体験が僕の中にはあったんです。
――アニメならではの表現のために脚本に手を入れた部分もありましたか?
それはありました。やはり絵に起こす段階で、脚本通りにならないこともあるんです。たとえば物語の序盤に「テレビのリモコン」の話が出てきますが、脚本ではセリフとして説明してありましたが絵として見せればセリフを省けます。年齢の話にも繋がりますが、説明的なセリフを入れすぎると低年齢層向けの印象が強まるので、見て理解できる以上の情報はなるべくコンパクトにまとめました。
――映像のトーンも色彩を少し抑えた大人っぽいテイストに感じられました。
映像については、西部開拓時代の実話を基にした『レヴェナント: 蘇えりし者』という映画を意識しています。ひとり雪原を生き抜いた男の物語で、落ち着いた雰囲気の絵柄でキャラクターの彩度を落したり、景色を主役にした場面が多い作品です。作品の方向性の話をしている時に色彩設計の西香代子さんが「地に足のついた、落ち着いた雰囲気が合うんじゃないか」と提案してくれました。クライマックスを派手に盛り上げるため、それ以外のトーンを抑えるなど全体の流れの中で色を決めていったんです。
――『隻眼の残像(フラッシュバック)』というタイトルはどのように決まったのですか?
実は最初は青山先生や小学館の編集部さんで方向性を決めるものだと思っていたら、最初の打ち合わせで「いい案はありますか?」と聞かれて驚いたという(笑)。製作委員会の皆さんやスタッフ陣で意見を出し合って、最終的には青山先生がお決めになったようです。正式に決まったのは推理シーンを含め、ある程度固まった時期でした。タイトルを見て「残像(フラッシュバック)はこれに使える」と、キャラクターの過去を絡めたり推理シーンにも活かしました。意図して使えたのでありがたかったですね(笑)。
――監督がご自身で絵コンテを描いたのはどんなシーンやシークエンスだったのでしょうか?
自分で切ったのは序盤と終盤ですね。終盤もアクションと推理パートに分けて、僕は推理パートを担当し、アクションは寺岡巌さんにお願いしました。寺岡さんは作画や絵コンテで毎年参加される方で、今回も密にやっていただきました。
――コナンがマフラーをリボンのように着けるなどの遊び心も見られました。衣装や小道具でこだわったことはありますか?
雪山に行くお話なので、最初からメインキャラの服装は一新しようと決めていました。冬ですから自然と厚着になるので、意識したのはかわいい方向でのふっくらしたシルエット(笑)。コナンにマフラーをさせようと提案してくれたのはイメージボードのよー清水さんで、衣装デザインを描きおこす際に僕からリボン型にしてほしいとお願いしたんです。単純に僕が蝶ネクタイ型変声機を気に入っていることもありますが、雪山仕様でもコナンらしさを踏襲したかったんですね。それを蘭がつけてあげる芝居をさせたり、ストーリーにもうまく落とし込めたと思います。
――ゲストキャラクターはまず監督が全員分の設定を考えたそうですね。
ひと通り自分で描いたラフを青山先生にお見せして確認していただき、上げていただいたデザインを須藤さんがアニメ用にまとめる流れです。最もラフから変わったのが長谷部陸夫でした。僕はエリート検事のイメージを持っていましたが、青山先生が「こんな感じじゃないか」とくせっ毛など盛ってくれたんです。ワニ(鮫谷浩二)も青山先生が描いてくださいました。「ワニは昔、小五郎とこんなことがあったのかなぁ」と僕がラフでアイデアとして出していたものを青山先生が描きおこしてくださって。その絵がとても良かったので、作中で昔の写真としても生かしました。劇中のキャラクターは最終的には総作監の須藤さんが整えてくださるのですが、全体をひとりで担当するのは物量的に大変なので、ペースに気をつけながら総作監チェックをお願いしました。結果的に、例年より作画全体の流れが良かったとおっしゃっていただけました。
――今回も青山先生の作画が楽しめましたが、どのシーンを担当されるのかはいつ頃どのように決めるのでしょうか?
青山先生が絵コンテのチェックをされる時に「このシーンいいね、俺描こうか」と提案をしてくれるんです。絵コンテが上がった段階で「ほかにも描いたほうがいいところある?」とも聞かれました。今回は青山先生が選んだものとこちらからのリクエスト合わせて13カットの原画を描いていただきました。
――アクションの作画も見応えありましたが、エフェクト作画監督の芳山優さんはどのパートを担当されたのでしょうか?
雪崩のシーンやスケボーチェイス、あとは終盤のクライマックスのスノボーのエフェクトですね。中盤はアクションがないので、スケボーで始まってスノボーで決着をつけるアクションシーンをお願いした形になりました。正確にはラストはスノボーではありませんが、それは劇場版を見てのお楽しみで(笑)。
――完成した劇場版を最初に見た時にどう感じましたか?
制作中にほぼほぼ完成形がイメージできていたので驚きはなかったですが、始まりから終わりまで長野県の話ですし、最後までブレずに犯人と決着をつけているので一本道で繋がった作品だなとは思いました。約2時間という枠の中で満足してもらえる作品を目指し、その通りに仕上げられたと思います。
――実際に監督をしていかがでしたか?
やっぱり大変な仕事でしたね。演出の仕事はある程度固まったものを仕上げる実作業がメインなので自分のパートだけを考えればよいのですが、監督は「ここだけ力を入れる」というわけにはいきません。大事なパートだけど他のパートとの兼ね合いでカロリーを抑えたいなど、引き算をしないといけません。ここは1日で終わらせて、その時間を別パートに充てるなど時間配分にも気をつけました。
――監督・重原克也らしさについてご自分でどう考えますか?
どうですかね(笑)。僕ひとりではなく多くのスタッフが力を合わせた総合的な作品ですから、これが重原だと言いきるのは難しいと思います。でもあえて言えばフィルムの統一感に“らしさ”があるかもしれないですね。全体のバランスには気をつけたので、ほぼ2時間の作品としてまとまっていると感じてもらえたら、それが自分らしさかもしれないですね。
――子供の頃にコナンに出会い今は作る側になったわけですが、監督にとって『名探偵コナン』の魅力は何だと思いますか?
ずっと追いかけてきたわけではなく、年齢が上がって離れた後に仕事として戻った身にとってはキャラクターだと思います。コナンや今回の小五郎もそうですが、何年経ってもキャラクターが変わることなく微塵もブレていない。新たな事件やキャラクターが出てきて、いろんなサイドストーリーが進んでもコナンがコナンであり続けているのは大きいと思います。いつの年代のどのエピソードでも、たとえ途中から観はじめても繋がれるのは魅力ですよね。もし『名探偵コナン』を観たことがない人は『隻眼の残像(フラッシュバック)』から入ってもいいでしょう(笑)。
――劇場版を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします。
長野県警をメインにした初めての劇場版なので、『名探偵コナン』の中で長野県警がどんな位置づけなのか、どんなキャラクターがいるのかわかってもらえるよう心がけました。長野県警が好きなファンはもちろん、劇場版だけを追いかけている人でも楽しんでもらえると思います。これを機に長野県警を深掘りしたら楽しいかも、と思ってもらえたら嬉しいですね。『名探偵コナン』はたくさんのファンがいるだけでなく、それぞれの楽しみ方をしているファンも多いと思います。最大公約数のファンを意識した作品というよりも、コナンらしさを持ちながらこれまでにない味わいの作品を目指しました。何度観ても楽しんでもらえることも意識したので、ぜひ劇場で味わってほしいですね。
Profile
重原克也
1984年生まれ、富山県出身。本作が初監督。
TVアニメ 「Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-」「モブサイコ100」
劇場版『名探偵コナン』では『ゼロの執行人』『紺青の拳(
STAFF
原作:青山剛昌 「名探偵コナン」(小学館「週刊少年サンデー」連載中)
監督:重原克也
脚本:櫻井武晴
声の出演:高山みなみ(江戸川コナン) 山崎和佳奈(毛利蘭) 小山力也(毛利小五郎)
高田裕司(大和敢助) 速水奨(諸伏高明) 小清水亜美(上原由衣)
©2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会