イメージをどう形にしていくか——ジェームズ・キャメロン創作の舞台裏『テック・ノワール ジェームズ・キャメロン コンセプトアート集』

 

テキスト・神武団四郎

『ターミネーター』『エイリアン2』『タイタニック』『アバター』と大ヒット作を生み続けているジェームズ・キャメロン。コンセプト作りから具体的なデザインまで、創作の裏側をキャメロン自ら解き明かしている名書が『テック・ノワール ジェームズ・キャメロン コンセプトアート集』だ。

フルカラー、336ページものボリュームの本書は、キャメロンが企画段階で描いたスケッチやコンセプト画、制作にあたって作製したデザイン画など、長年にわたり描いてきた多数のアートワークが収録されている。

 

アーノルド・シュワルツェネッガー決定前から描きためられた『ターミネーター』のイメージ画、『エイリアン2』の装備やメカ、エイリアンや惑星アチェロンの設定図、『アバター』のナヴィや多彩なクリーチャーのスケッチ…。完成作だけでなくボツになった企画やキャラクター、『タイタニック』でレオナルド・ディカプリオを代筆した数々のスケッチ、サム・ライミの前に監督が予定されていた『スパイダーマン』のコンセプト画など、その内容はまさに“アートワークでふり返るジェームズ・キャメロン・ヒストリー”。一枚絵のように完成されたコンセプト画はもちろん、ノートに描かれたラフスケッチから現場の壁に貼られ汚れてしまった設計図まで、よく保管していたと感心するほどバラエティに富んでいる。

 

 

興味深いのはキャメロンの未完の企画『Xenogenesis』の紹介だ。この作品は、デビュー前からキャメロンが温めていたSFアドベンチャーで、プロモーションリールまで制作したが頓挫した幻のSF映画。企画段階で描かれた膨大な数のメカ、キャラクターの設定・デザイン図、コンセプト画と共に、ストーリーなど作品概要にも大きくページが割かれている。そのデザインや設定は後の作品にさまざまな形で現れており、『Xenogenesis』がキャメロンの原点であることがよくわかる。

 

 

それぞれの絵にはキャメロンの詳細な解説が添えられ、発想法やデザイン完成後のワークフローまで細かく書き記されている。イメージをどうやって具体的な形にしていったのか、現場で起きたトラブルやその対処にも触れており、映画作りの教本としても役立つだろう。

ほかにも影響を受けた作品や人物、友人やガールフレンド、両親とのやり取りを含むパーソナルライフまで言及。映画のポスターイラストで食いつないでいた下積み時代に映画会社で監督と殴り合いの大ゲンカをした武勇伝、初めてプロの世界で仕事を得たきっかけや初のメジャー作品『エイリアン2』との偶然の出会いにも触れており、映画人ジェームズ・キャメロンを読み解く研究書としても有用だ。

本書がユニークなのは、映画関連以外にも幼少期から青年期にかけ描き続けたイラストやマンガ、デッサンなども収められていること。映画や小説、コミックブックに夢中になった少年が、やがて科学の虜になり、映画の道を志していく過程が絵を通して浮かんでくるよう。絵の具や用紙など使用した画材や技法にも触れており、キャメロンの絵に対する愛情も伝わってくる。

序文はキャメロンと同じく自らアートワークも手がけるギレルモ・デル・トロが書いており、新人時代の出会いからその魅力まで熱く解説。映画人として、アーティストとしてキャメロンの神髄がぎっしりと詰まった一冊だ。

 

書籍情報

『テック・ノワール ジェームズ・キャメロン コンセプトアート集』

大好評発売中
B4変型判/336ページ/フルカラー
定価:本体5,000円(+税)
発売・発行:玄光社