すべての形には意味がある!桂正和が40年こだわり続けた機能性とカッコよさのせめぎ合い

テキスト・神武団四郎

81年の漫画家デビュー以来『ウイングマン』『電影少女』『I”s』『ZETMAN』などヒット作を連発し、キャラクターデザイナーとしても大活躍中の桂正和先生。現在開催中のデビュー40周年記念の大規模展覧会「40th Anniversary 桂正和 ~キャラクターデザインの世界展~」も大盛況の桂先生に、オリジナルキャラクターをデザインすることについて、インスピレーションの源、いま気になっている造形師など、創作の裏側を語ってもらった。

Interview

キャラクター作りにおいて桂先生が大切にしていることは何でしょう?

キャラクターのデザインで、幼心にすごいなと思ったのは『電子戦隊デンジマン』なんですよ。『秘密戦隊ゴレンジャー』もそうなんだけど、目の部分が黒くなってるじゃないですか。ウルトラマンにしろ仮面ライダーにしても目があったのに、目がゴーグルになっていることに驚いて。その時に受けた衝撃のままウイングマンをデザインしました。『ウイングマン』はまだ10代だったので、そんなに意識はしてないかったと思うんだけど、他と同じことをやってもしょうがないという思いはずっと基本にありますね。

『TIGER & BUNNY』のバーナビーは最初サブキャラだと思ったから赤にしたという、カラーリングも同じ発想なんですね。

ウルトラマンのラインをはじめヒーローは基本レッドですから。『タイバニ』でいえばワイルドタイガーのほうはあえて使わない色にしよう、「黄緑のヒーローっていなかったよな」という発想ですね。決めたのはエアマックス95を見た時で、あのネオンイエローのグラデーションがすごく美しかったんですよ。このプロダクトをヒーローにしても絶対に成立するはずだと。つまり、あのカラーリングはエアマックス95なんです。本当は蛍光イエローにしたかったんだけど、デザイン画を黄緑にしたらそのまま通っちゃったという(笑)。もう配信がはじまったからネタバレでいいと思うけど、『TIGER & BUNNY2』のフガンとムガンが真っ白なのも、悪だから白にしたいという発想。これは『マトリックス リローデッド』のザ・ツインズでやられちゃってますが、僕の場合すべてそういう思考なんです。

衣装をデザインする時に機能性とカッコよさどちらを優先させているのでしょうか?

そこはせめぎ合いなんですよ。かっこよくないといけないし、実際に着れなきゃだめという思いもある。ここをこう繋げたいけれど、それでは着れなくなるような場合にアニメだからと押し切るか、なるべくうまく嘘をつくか…『タイバニ』のデザインはそれっぽく見えるよう嘘をつきました。あの時はそんなことを考える余裕がないままスタートしたしね。でも作品の全体像が見えたあとに作った『タイバニ2』では、人が着るにはどうあるべきかを意識しています。だからデザインの印象は『タイバニ』と同じでも、細かいところはだいぶ違ってるんですよ。そこで遊んだというか、できるだけ同じように見せているけど、実は進化させたところはデザインしながらワクワクしました。

フィクションの中でリアルを追求するのも初期作品から通じる部分ですね。

僕はSFが好きなんですが、中でも絵空事じゃない世界のほうが好きなんです。ちょっと抽象的ないい方ですが、現実の中に不思議なものがあるから面白いという。怪談が好きなのも同じ理由で、日常の中に奇妙なことが起こるから面白い。日常の部分はできるだけ現実として感じてほしいという思いがあるので、リアルな表現になってしまうんだと思います。

これまで多くのディレクターや作家とコラボをされていますが、特に印象深いお仕事を教えてください。

 印象深いといったらここじゃ言えないオフレコばかりになるんだけど(笑)。個性という意味では、『ASTRAL CHAIN(アストラルチェイン)』の田浦貴久ディレクターはすごく明確なビジョンを持ちつつ、僕にどうしてもらいたいのかしっかり持っていましたね。たとえばレギオンは最初の注文こそ『タイバニ』みたいに漠然とした感じだったけど、僕が出した絵をもとに「ここはもっとこうできないか」「お腹に穴を開けたらどうだろう」といろいろ返してくるわけです。「あ、それ面白いですね」ってやりとりがけっこうあって完成した作品なので、『ASTRAL CHAIN』はとても印象に残ってます。

インスピレーションを得るうえで、とくに意識しているものはありますか?

電化製品ですね。刺激を受けるデザインが多いので、カメラから白物家電まで電化製品はよく見ています。きっかけは阿佐ヶ谷美術専門学校時代に、「モノの形にはすべて意味がある」と教わったことですね。たとえば電話の受話器はなぜそういう形をしているのか、それを知ってから逆に意味がない形はダメなんだと。中にはとっぴなだけのデザインや、かっこいいけど使いずらい製品もありますけどね。ここ最近とくに注目しているのは掃除機です。掃除機の形はもう少しなんとかならないかと思っていましたが、ダイソンなど面白いデザインが増えてきました。家電以外ではスニーカーも好きだけど、もう熟してますからね。でもエアマックス95やエア ジョーダン1などナイキの革の当て方は今でもかっこいいと思うし、フォルムも魅力的だからコレクターが多いのはわかります。

いま気になっている造形家はいますか?

今回の展示で『ZETMAN』をモチーフに、Masksmithさんにマスクを作ってもらったんです。あの方は革を使って面白いもの作っています。はじめてMasksmithさんを知ったのはバイオ・アートの展示会に出していたフランケンシュタインのマスク。その時に知り合って、今回の展示会用に『ZETMAN』のマスクをお願いしたらすごく面白いものを作ってくれました。このマスクは革製だけど、粘土で原型を彫刻しFRPで型取りしたベースに革を張っているので、実際にはかぶれないオブジェなんです。「やってる手順が竹谷(隆之)と一緒じゃん!」って(笑)。1ヶ月あれば大丈夫かなと勝手に思って依頼したら、ギリギリだったという(笑)。Masksmithさんはとてもユニークな人で注目してます。

40年の節目を迎え、長く続ける秘訣や今後の活動で思うことはありますか?

ずっと同じことをやってると同じものしか見えないので、色々なものに興味を持って新しいものに触れることが秘訣じゃないですかね。僕は『ワンピース』や『鬼滅の刃』みたいな満塁ホームランは打てません(笑)。でも大きいホームラン打っちゃうと疲弊しちゃいますから、40年間いろんなことをしてこられたのもそのおかげかなと。これからもマイペースで楽しんでやっていこうと思います。

展覧会開催概要

○タイトル:40th Anniversary 桂正和 〜キャラクターデザインの世界展〜
○会  場:池袋・サンシャインシティー 文化会館ビル3階 展示ホールC
○期  間:4月27日(水)~5月8日(日) ※会期中無休
○開催時間:全日10:00〜18:30
※最終入場は閉館1時間前までとなります。
※展示会場18:00閉場、物販会場18:30閉場
○入  場  料 :一般 1,500円(税込)
○主  催 :「桂正和の世界展」実行委員会
○協  力 :集英社