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【スカルプターズ・ムービー】綾野剛と成田凌の最初の出会いはひと目ぼれ? 清水崇監督が明かす映画『ホムンクルス』にこめた思い

テキスト・神武団四郎

奥深い人間描写と濃厚な世界観で人気を誇る漫画家・山本英夫の代表作「ホムンクルス」を、ジャンルを超え次々にヒット作を生みだしている映画監督・清水崇が映画化。人間の心の闇に迫った衝撃作を、綾野剛と成田凌、旬まっ盛りの俳優を迎えてどう描き上げたのか、清水監督にお話を伺った。

4月2日(金) より期間限定公開 配給:エイベックス・ピクチャーズ 
Ⓒ2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ

 

STORY

高層ビルと、ホームレスで溢れる公園の狭間の路上で車上生活を送る名越進。過去の記憶を失い感情すら忘れた彼の前に、研修医を名乗る伊藤学が現れ「70万円で、あなたの頭蓋骨に穴を開けさせて欲しい」と申し出た。彼は、頭蓋骨の圧迫から脳を解放することで第六感が芽生えるという奇妙な手術〈トレパネーション〉の実験をしているという。過去を思い出す可能性を信じて手術を受けた名越は、左目だけで相手を見た時に深層心理によって歪められた内面を視覚として認識できる、特殊な能力を身につけてしまう。右目を覆って街に目をやると、そこには異形の人々=ホムンクルスがあふれていた。はたしてそれは真実か、彼の脳が作り出した虚構なのか……。

 

INTERVIEW 清水崇

「ホムンクルス」との出会いと魅力

僕が『輪廻』という映画を監督した2005年、ちょうど「ホムンクルス」がビッグコミックスピリッツで連載中でした。どちらも心理的な題材で、僕と山本英夫先生は歳が近かったこともあり、プロモーションとして対談をすることになったんです。それを機に「ホムンクルス」を読みだしました。この漫画の魅力は、人間の精神世界を視覚化していること。心の闇や抱えているものを異形のものとして描き、名越がその正体を追いかける。でもそれは単なる入口にすぎず、相手の心に入った名越が失った自分の記憶や感情を探求せざるを得なくなる流れがすごいなって。実は対談の席で「映画化の時はお願いします」「いいですね」みたいな話をしてたんですよ。単なる口約束でしたが、15年経って現実になりました(笑)。

 

実写映画化のポイント

漫画の表現が写実的だったので、実写化はそれほど難しくないだろうと思いつつ、脳内の表現や名越の中での出来事をどう表現するかは悩みました。中盤以降の展開はアレンジしながら、漫画ではできない実写ならではの表現を意識しました。どのキャラクターを登場させるか脚本の段階でかなり試行錯誤しました。脚本の内藤&松久両氏と様々なパターンを模索しましたが、やっぱり組長と1775は外せない。ただし時間が限られている映画では、原作のようにひとりひとりをじっくり描いている余裕はありません。無理矢理押し込んだと感じられないよう、そこも苦心しましたね。

 

名越と伊藤のキャラクター

主人公の名越は中年男、いわばオッサンじゃないですか。記憶も感情もなく、社会的地位を捨てたホームレスのオッサンが、自分の内面に関わる映画を誰が見たいの? って思いますよね(笑)。それを老若男女とわず、自分だったらどうするだろうと感じてもらうためには、魅力的なオッサンでなければならない。名越はどんな人物か、その魅力は何なのか、そのあたりは綾野剛くんとずいぶん話し合いました。綾野くん自身もすごく勢いがあるので、存在感あるキャラクターになったと思います。

綾野くんで特に印象に残っているのが、2度目のトレパネーションの術後シーン。片目に血が流れ込んだ状態で名越が笑うところで、綾野くんがすごい表情を見せるんです。普段使わない顔中の筋肉を使って片目のまま笑顔を作ってくれたんですが、それがとんでもない顔つき。本人もモニターでチェックしながら「いいっすねー、オレなんて顔してるんだ」って(笑)。彼の美的感覚と自己承認欲に裏付けされた“役を生きる”センスはハンパないので、すごいシーンになりましたね。


頭蓋骨に穴を開け脳を圧迫から解放するトレパネーションを受けた名越は、右目を隠すと相手のトラウマを視覚として認識できるようになる。「自然とにじみ出る綾野くんの存在感が名越を魅力的な存在にしてくれました」

 

成田凌くんは、まだ若い俳優ですがいろんな役を経験しています。でもパターンに陥りたくないという思いを持っていたし、僕も今までにない成田凌の一面が観たかったので、お互い意見を交わしながら役を作っていきました。原作の伊藤は話が進むにつれどんどん変わっていきますが、2時間の映画で大きくキャラクターは変えられません。そこでまず軸となる伊藤を作り、シーンごとに見た目を変えていったんです。ウィッグやメイク、アクセサリーも含め、伊藤の中で何がどう変わるのかを、ヘアメイクや衣裳、スタイリスト、成田くんを交えて話し合いました。基本的に伊藤は自分を見つめ切れていない人物なので、最初は奇抜なファッションで身を固め、それらを徐々に取り去って本当の自分があらわになる流れです。おかげで成田くんの衣裳合わせは時間がかかりましたが、どんな場所で何を身につけるのかも俳優さんの役作りには大切なんです。


伊藤は登場シーンごとに髪型から衣裳、装飾品まで違っている。「伊藤の中の変化に連動して、見た目を変えていきました。基本的には、本当の自分をつかめずにいる伊藤が少しずつ素の姿になっていく流れですね」

 

名越と伊藤の関係性

ふたりの関係性で意識したのは、出会った瞬間から何かを感じあっている、緊張感を持ちながら互いにシンパシーを抱くということですね。映画の前半と後半で、伊藤は名越に「あなたでなくてはだめなんです」と言いますが、つまり恋愛でいえばひと目ぼれ。普段の生活で波長が合うとか、逆に理由もなく「この人苦手だわ」と誰でも感じるのと同じですね。ただ、その苦手意識も大切なネガティブシンクロで、それを具体的な映像表現に取り入れられたら斬新な映画ができるんじゃないかな。以前山本先生と話をしていた時「もし合コンとかで、相手の女の子の気持ちが見えたら面白いし、怖いよね」なんてことを話してました。もしかしたら山本先生は、そんな日常の延長から人間の内面を具現化する、視覚化するという発想を思いついたのかもしれませんね。


トリッキーでミステリアスな伊藤は、名越にトレパネーションを受けるよう迫る。「ここは歩き回ったらどうだろう、ここでは座ってみようか、など現場では成田くんと話し合いながら一緒に役を作っていきました」

 


自分にまとわりつく伊藤に警戒心を抱く名越だが、失うもののない彼は施術を受け入れる。「ふたりは出会った瞬間から何かを感じあっているんです。男女間の恋愛でいえば、ひと目ぼれと同じ感情ですね」

 

トラウマという題材に惹かれる理由

僕自身、トラウマや記憶、親子や兄弟姉妹を題材にするのが好きで、最近の『樹海村』もそうですが自然と題材に選んでいます。なぜだろうと考えると、たぶん幼い頃の記憶なんですね。少年期にとても大切なものを置き忘れてきた気がして、それが何だかわからないままずっと心に引っかかっている。おぼろげすぎて本当に何かあったのか、夢で見ただけなのかもわかりません。『ホムンクルス』の伊藤でいえば、他人からすれば「たいしたことない」と映る出来事かもしれないけれど、時を経て、今に至る育成環境や経緯で、彼の中でアイデンティティを揺さぶる程の大きな存在の“しこり”になってしまった。それを他人に見せまい、触れさせまいという気持ちがさらに肥大させていったんです。人間の精神世界の闇って実はすごく大きくて、自分で解消できず完全に心を閉ざしてしまう人もいる。とても危険な部位だと思います。


名越が出会うJK風俗店で働く女子高生1775は、形式に囚われた砂のような存在だった。「石井杏奈ちゃんはメインキャストの中でいちばん若いんですが、振り幅が大きくホムンクルスが見えづらい。生粋の女優ですね」

 

PROFILE

清水崇 Takashi Shimizu

1972年7月27日生まれ、群馬県出身。ブースタープロジェクト所属。98年、関西テレビの短編枠で商業デビュー。東映Vシネマで原案・脚本・監督した『呪怨』シリーズ(99)が口コミで話題になり、劇場版(01,02)を経て、USリメイク版『THE JUON/呪怨』(04)でハリウッドデビュー。日本人初の全米興行成績No.1を獲得。続く『呪怨パンデミック』(06)も全米No.1に。近作に『9次元からきた男』(16)、『ブルーハーツが聴こえる/少年の詩』『こどもつかい』(共に17)、『犬鳴村』(20)、『樹海村』(21)など。ジャパンホラーの巨匠としてホラーやスリラーを中心に、ファンタジーやコメディ、ミステリー、SFなど様々なジャンルに取り組んでいる。

 

 

CAST

綾野 剛 成田 凌 岸井ゆきの 石井杏奈・内野聖陽

 

STAFF

原作:山本英夫「ホムンクルス」(小学館「ビッグスピリッツコミックス」刊)
脚本:内藤瑛亮、松久育紀、清水崇
プロデュース:古草昌実 企画プロデュース:宮崎大 プロデューサー:中林千賀子、三宅はるえ
制作プロダクション:ブースタープロジェクト In association with Netflix