【ウルトラ怪獣ホビー列伝】第二回「バンダイ 旧ウルトラ怪獣シリーズ 宇宙怪獣ベムラー」

テキスト:藤本圭紀

第二回!コラム・ウルトラ怪獣ホビー列伝!
バンダイが展開するソフトビニール人形「ウルトラ怪獣シリーズ」。1983年の発売開始から現在に至るまで店頭に並び続ける、まさに“国民的怪獣玩具”と言える存在だ。今回は、2013年のサイズ変更以前に展開されていた“旧ウルトラ怪獣シリーズ”のベムラーのうち、1994年リメイク版を中心に その魅力を取り上げたい。

 

※本コラムで紹介されている「ウルトラ怪獣シリーズ 20 宇宙怪獣 ベムラー」は販売を終了しております。

 

大手メーカーが挑んだ「スタンダードソフビ」の新基準

まず本シリーズ、「ウルトラ怪獣シリーズ」について触れておかねばならない。販売が開始されたのは1983年は、ホビー業界ではガレージキットの誕生による ビッグ・バンの真っただ中。はじめはアマチュア内だけだったその熱波が、大手メーカーにまで押し寄せてきた時代である(この辺はまた別の機会で詳しく書きたい)。

テレビCMでも謳われていた“超リアルな造形で、完全再現”……なんと芳醇な響きであろうか。

そう、目指したのはリアルな造形。ガレージキットにも迫るクオリティをテーマに掲げていたことは想像に難しくない(事実、初版分はユーザー本人がよりハイクオリティな彩色を楽しめるようにとホワイト成型色版が発売されていた)。対象年齢は3歳以上という、所謂男子向け玩具にカテゴライズされる商品ではある。それでもシリーズの目標は高く、今までにない新しいモノを作ってやろうという実に高い志にあふれた商品なのである。販売価格は500円。長い販売期間の間には何度かの価格変更はあったものの、当然のようにこのシリーズは大歓迎され、以後40年間“おもちゃ屋さんに行けば必ずある”定番商品として君臨し続けるのである。

筆者所有のVHSから、89年時のテレビCM。ズラッと並んだソフビ人形、この絵面にトキメカナイ40代男子など皆無であろう。劣化した画質と合わせてお楽しみください。
©️円谷プロ

 “本物”を目指したリメイク元年

40年も続く長寿シリーズ。その長い歴史の中では当然、造形的に“今の目でみると……”と感じる商品が出てくるのも当然だろう。

販売から10年が経過した1994年、ついに一部キャラクターのリメイクが開始される。

90年代はユーザー、メーカー共に“リアル造形”に対する感覚が成熟し、それまでのキャラクターへ対する解釈、理解がいっそう深いモノへと変わる。

技術と経験も蓄積され、加えて成型やコストなどの制約がある中でどこまでのことができるか……インジェクション成型とのミックスなど、新たなフェーズに突入したように感じる。

原型師の代替わりも始まったのだろうか、それまでのテイストと大きく違う造形が現れ始めたのもこの頃だろう。

ハイパーホビー創刊号にて掲載されたリメイク情報。特にこのアングルで見たバルタン星人のクオリティは衝撃の一言。
©️円谷プロ

 

 

 

旧版ベムラー83年当時の「リアル」を体現した造形

そして今回取り上げるベムラーもリメイクの対象として選ばれた。まずは旧版の写真を見てほしい。

こちらもそれはそれで味わい深いものがあり、怪獣玩具としては実に魅力的な商品である。細かなトゲやウロコのモールド、凶悪なまでに鋭く造形されたキバは“悪魔のような怪獣”の名に恥じない仕上がりだ。83年時点での“リアル”を体現した立体物であることは間違いない。

しかしながら次に紹介するリメイク版と比較すると、両者から感じる“リアル”の性質がまったく別ものであることに気づかされる。

 

脚の付け根などにそれまでの“ソフビ人形”的解釈が見られるが、綿密に彫刻された体表のモールドなど、83年時点での“リアル再現”において実に意欲的な造形である。
©️円谷プロ

 

 

怪獣玩具はここまで来た― 到達点ベムラー

リメイク版ベムラー。その完成度はウルトラ怪獣シリーズ中、ベスト3に入るといっても差し支えないだろう。スーツの質感を表現した下半身のたるみ、デフォルメされながらも“リアル”を逸脱しない頭身バランス。劇中スーツに比べ気持ち大きい腕は、全体を見ると立体物としてベストなバランスであることがわかる。顔の向き、腕の角度、脚も前後に微妙に動きがついていて実に芸が細かい。この繊細な表現が飽きの来ない造形に繋がっている。きめ細かく、丁寧にモールディングされたウロコや体表ディテール。

“ソフビだから”という言い訳に甘んじない、見事な造形だ。原型師のセンスをひしひしと感じる。

“ガレージキットも真っ青のクオリティ”……当時よく目にしたフレーズであるが、このベムラーに関しては単なるキャッチコピーに留まらない説得力がある。
©️円谷プロ

“丁寧に彫刻された顔やウロコ、喉元の繊細なモールドを見よ!
©️円谷プロ

 

 

“怪獣のイメージ”を色で語る

カラーリングについても触れておこう。
成型色は光沢のあるココアブラウン。身体正面に吹かれた金スプレーが玩具的華やかさ、背面に吹かれたメタリックなグレーグリーンが渋さを演出。竜ヶ森湖より出現した劇中のベムラーのイメージとしてこの上ない配色である。
そして牙、手足の爪をアイボリーで〆ることによって、一気に湿度あるリアル感が増す。
このベムラーも発売時期によって彩色は変更されるが、光沢感を生かすことによって“ソフトビニール”という素材の魅力を十分にアピールしつつ、生物的リアリティを表現した本彩色がベストだろう。玩具というカテゴリーの中で最大限に表現されたリアリティバランス、怪獣玩具にはそれが必要なのである。

リアルでありながらも光沢感が醸し出す“ソフビ人形”であるという安心感。ボディ前後に吹かれたスプレーのセレクト、たった二色であるにも関わらず、複雑な生物感を演出している。
©️円谷プロ

 

色褪せることのない「本気の造形」

「バンダイ ウルトラ怪獣」シリーズは決して“子ども向け”商品に甘んじた商品ではない。シリーズ開始の経緯、時代性を考えるとそれは明白である。
“大人の鑑賞にも耐えうるホビー”それがウルトラ怪獣シリーズであり、そ こから感じる“大人の本気”にかつて少年だった我々は魅了されたのである。
バンダイウルトラ怪獣シリーズ。ウルトラホビー・マスターピースのひとつとして、その志は今も尚、色あせることはない。

両者が放つ時代性。それぞれの造形に特別な想いを抱く人も多いことだろう。怪獣玩具は時代を内包したタイムカプセルである。
©️円谷プロ

 

藤本圭紀 Yoshiki Fujimoto Profile

ふじもと・よしき

1983年、大阪市生まれ。千葉県在住。大阪芸術大学彫刻科の在学中より、本格的に造形活動をスタート。卒業後、商業原型師として株式会社エムアイシーへ入社。2012年から創作フィギュアの制作を開始する。2015年、豆魚雷の主催する「Amazing ArtistCollection第三弾」に選出。2017年にフリーランスとなり、商業フィギュア原型と創作フィギュアの制作を中心に、キャラクターデザインや映画作品『シン・仮面ライダー(2023)』への造形参加など、多方面で活躍している。2022年、東京・高円寺にて初の個展「LITTLE GARDEN」を開催。オリジナルフィギュア作品集『BLINK』が大日本絵画より発売中。

X:@YOKKI_munchkin_

 

 
 
 

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