3DCG , アニメ , 映画 2020.11.29

スカルプターズ・ムービー Vol.01『映画 えんとつ町のプペル』

テキスト・神武団四郎

キャラクター造形やクリーチャーデザイン、撮影の舞台裏をメインに紹介する、スカルプターズのための映画コーナー。今回は『映画 えんとつ町のプペル』をご紹介。

50万部を超えるベストセラーとなったキングコング西野亮廣の絵本「えんとつ町のプペル」を映画化した『映画 えんとつ町のプペル』が、12月25日より公開される。西野自身が製作総指揮、脚本を担当した本作は、厚い煙に覆われ空すら見えない“えんとつ町”での物語。父から教わった“星”の存在を信じる孤独な少年ルビッチと、ゴミから生まれたプペルの出会いと友情、星を求めて旅立つ冒険が描かれる。絵本の味わいを生かした温かみあるアニメーションを制作したのは『マインド・ゲーム』や『ベルセルク 黄金時代篇』3部作、『海獣の子供』など数々の話題作を手がけてきたSTUDIO 4℃。同社で演出、CG監督として活躍してきた廣田裕介監督に、本作に込めた思いやその舞台裏を聞いた。

12月25日(金)より全国公開 ©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会

STORY

厚い煙に覆われた“えんとつ町”。煙の向こうに“星”があるなどと誰もが想像すらしなかった。一年前、紙芝居を通し人々に星の存在を語っていたブルーノが姿を消し、人々は海の怪物に食べられてしまったのだろうと噂した。ブルーノの息子ルビッチは、学校を辞めえんとつ掃除屋として家計を助けることに。しかし父と同じく星があると信じるルビッチも、周囲から避けられるようになっていく。ハロウィンの夜、ルビッチの前にゴミから生まれたゴミ人間プペルが現れた。孤独なのけもの同士であるふたりは友達になる。そんなある日、父の紙芝居に描かれていた “船”が海から出現。父の話が本当だったと確信したルビッチは、プペルと船に乗って星を見つけに行こうと決意するが……。

INTERVIEW

©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会

――原作を読んだ時どう長編化しようと思いましたか?

映画にするにはボリュームが足りないので、もっとキャラクターやストーリーを組み込む必要があると思いました。また、基本的にゴミ人間プペルが主人公ルビッチ君を引っぱる形で展開しますが、映画にするならルビッチ君の描写を増やして彼の成長をもっと描きたいなと。でも打ち合せの時に西野亮廣さんと話をしたら、彼の中にはすごく大きなストーリーがあって絵本にしたのはその一部だったんです。その構想を基に絵本を膨らませることになり、西野さんがシナリオを執筆。2週間に1度のペースで上がったものを話し合い、半年ほどかけシナリオを作っていきました。

――打ち合せの中で印象に残っていることはありますか?

西野さんのエンターテインメントに対する姿勢ですね。作ることへのこだわりはもちろんですが、それをどう人々に届けるかなどいろんなことを考えていて、その真摯な姿勢に感銘を受けました。あと、お笑いをされてきたので、シナリオにも漫才のような掛け合いが多く出てきます。その部分は、シンプルな構図を意識してテンポよく見せていくよう心がけました。

――絵コンテは廣田監督が描かれたのですか?

僕と、『えんとつ町のプペル』で演出をしているベテランの大森祐紀さん、作画マンで監督でもある清水保之さんの3人ですね。大森さんにはおもにアクションシーンを、清水さんはドラマを中心に描いていただき、僕は冒頭のシーンやラストなど、重要視しているシーンが中心です。ここだけは僕にやらせていただきたい、みたいな感じで分けさせて頂きました。

©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会

――ビジュアル的にこだわったのはどのようなことでしょうか?

3Dならではの、ダイナミックなカメラワークをたくさん使いたいなという思いはありました。それと僕はもともと作画のアニメーションに携わっていたので、手描きのラインによるリミテッドアニメーションが好きなんです。アナログ的と言いますが、CGくさくない映像を目指しました。たとえばCGだときれいな直線でヌルっとした動きになりがちなので、ラインに強弱を付けたり、動きもメリハリのあるケレン味を強調したり。背景も3DCGで作った上から、Photoshopを使って手描きで少し崩すようなタッチ感を出しています。めざしたのは、自分が理想とするこれまでにないCGアニメーション。なので制作中に『スパイダーマン:スパイダーバース』を観た時は、正直ちょっとやられた感はありました(笑)。

©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会

――動きにはすべて手付けですか?

基本的にはそうですが、「ハロウィン・スモーキーダンス」というダンスシーンは、振付師のakaneさんをモーション・キャプチャしています。あとスコップというマシンガントークでまくしたてるキャラクターもそうですね。セリフと動きの連動が重要なので、西野さんのイメージに合わせるために、ご本人にしゃべりながら演じていただきました。その動きをベースに、メリハリをつけるなど調整しながら作っています。

©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会

――もっとも苦労したのはどんなところでしょうか?

ひとつは、ゴミ人間プペルのキャラクターです。全身ゴミのパーツでできているので100個以上のゴミのパーツが必要でした。しかも人間のように皮膚がないので、動かす時にどれとどのパーツが連動するのか、すべて事前に仕込まなければなりません。こんなに大変なキャラクターははじめてですね。また、これだけのボリュームの背景をすべて3DCGで作ったことがなかったので、やってみて思いのほか作業量が膨大だと気づきました。CGアニメーションは、まず3Dモデルを作らないと動かせないというワークフローになっています。つまり、モデルに時間をかけると次の工程にどんどん遅れが生じていく。当初はタイトなスケジュールではなかったんですが、結果的にいま死にそうな状態です(笑)。

――作業は佳境の段階ですが、初めて長編映画の監督をされていかがでしたか?

テレビの演出も同じですが、監督はすべてのことに対して明確なイメージを持つ必要があると、あらためて実感させられました。とにかく考えなければならないことが際限なく出てくるので、いまは「完成したら報われる」と信じてとにかく邁進しています。もしかしたら完成時には、また違う感想になっているかもしれませんが(笑)。

 

Profile

廣田裕介 Yusuke Hirota

2001年にSTUDIO4℃に入社。石井克人監督のTVアニメ「ピロッポ」(01)でCGI監督としてデビュー。その後も、映画『マトリックス』をモチーフにしたオムニバス『アニマトリックス – BEYOND』(03)や、『Genius Party – BABY BLUE』(07)、『Genius Party Beyond – MOONDRIVE』(08)、『ベルセルク 黄金時代篇』3部作(12~13)等、数々の作品でCGI監督を務める。また、2015年公開の『ハーモニー』では演出も担当。『映画 えんとつ町のプペル』が初監督作品となる。

CAST

窪田正孝 芦田愛菜
立川志の輔 小池栄子 藤森慎吾 野間口徹 伊藤沙莉
宮根誠司 大平祥生(JO1) 飯尾和樹(ずん)
山内圭哉/國村隼

STAFF

製作総指揮・原作・脚本:西野亮廣 監督:廣田裕介
演出:大森祐紀 アニメーション監督:佐野雄太 キャラクターデザイン:福島敦子 キャラクター監督:今中千亜季 美術設定:佐藤央一 美術ボード:西田 稔 美術監督:秋本賢一郎 色彩設定:野尻裕子・江上柚布子 CGI監督:中島隆紀 編集:廣瀬清志 音響監督:笠松広司 アニメプロデューサー:長谷川舜 音楽:小島裕規 坂東祐大 アニメーション制作:STUDIO4℃ 配給:東宝=吉本興業 製作:吉本興業株式会社