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【スカルプターズ・ムービー】『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の隠し味は“和”のテイスト

 

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テキスト・神武団四郎

「007」シリーズ第25弾、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』が公開中だ。新たなボンド像で新風を巻き起こしたダニエル・クレイグ最後の「007」となる本作は、テロ組織を率いるリューツィファー・サフィン役でラミ・マレックが出演、女性007の登場などトピックの多い作品だ。そんな本作のキーワードのひとつが“和”。『メイキング・オブ・007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』によると、映画の中にはさまざまな形で和のテイストが盛りこまれていた。

ボンドをはじめ個性豊かなキャラクターが攻防戦を繰り広げる「007」シリーズ。彼らの活躍を盛り上げてきたのが、イマジネーション豊かなロケーションだ。歴代のボンドの宿敵たちは最新テクノロジーを投入し、深海や孤島の隠れ家、移動基地や研究施設、宇宙ステーションなどを建造。壮大なロケーションの数々がスペクタクルな見せ場を生みだした。そんな007ワールドを生みだしたのが、プロダクションデザイナーのケン・アダムである。『博士の異常な愛情』(1964)などキューブリック作品でも高い評価を得ているアダムは、シリーズ第1弾『007/ドクター・ノオ』(1962)から第11作『007/ムーンレイカー』(1979)まで7作品の美術を担当。未来的なディテールやスケール感ある空間造形で、シリーズの方向性を決定づけたキーマンというべき人物だ。

 

『ノー・タイム・トゥ・ダイ』でプロダクションデザイナーを務めたマーク・ティルデスリーは、そんなアダムスのエッセンスをサフィンの隠れ家に取り入れたという。「25作目の作品だから、何らかの形でこれまでのボンド映画を反映させようと思った」とティルデスリー。そんな彼が選んだのが日本を舞台にした『007は二度死ぬ』(1967)。この作品で悪の組織スペクターを率いるブロフェルドは、日本の火山島にロケット発射台を持つ秘密基地を建造した。北方領土の島にある旧ソ連のミサイル基地に作られたという、サフィンの隠れ家にも通じる設定だ。デザイン作製にあたりティルデスリーは、当時の図面を美術チームとともに詳細を分析。アダムの方法論を探り、今作のデザイン空間作りに生かしたという。

この隠れ家はアダムの方法論だけでなく、日本の建造物も参考にされた。瀬戸内海の直島に複数作られた、建築家・安藤忠雄による美術館がそれ。本作を監督した日系三世のキャリー・フクナガは、かつて直島を訪れたとき安藤がデザインしたコンクリート作りの美術館の構造に感銘を受けていたのだ。「シンプルでありながら大胆なデザインを目にしたとき、まるでケン・アダムスの現代版のようだと思った」とフクナガ。天井から入った日の光が壁をつたって館内を照らすその構造は、光の筋が降りそそぐ隠れ家の通路の原型だという。「影の中に立つボンドの青い瞳が、床の水たまりに反射した光で浮かび上がるのもそこからイメージした」とフクナガは明かしている。

 

厚いコンクリートに覆われた隠れ家は、いかにも東欧の建造物らしい重厚な印象だった。そのいっぽう、そこには枯山水を使った日本庭園や座卓の置かれた畳敷きの広間など、随所に和の要素も取り入れられている。北方領土の島であるため、サフィンの隠れ家のあるミサイル基地は、かつて旧日本軍のレーダー基地だったという裏設定があったのだ。セットにはほかにも盆栽、座布団など日本文化が見てとれる。装飾のヴェロニク・メイリは「サフィンはロシア系でありながら、幼い頃にかつて日本領だったこの島で過ごしていた。そんな影響をすべて混ぜ合わせた」と語っている。隠れ家でのサフィンの衣装の藍染め風の色合いや、全体のシルエットが和装を思わせるのもその一環ではないだろうか。

 

ノルウェー、イタリア、ジャマイカ、キューバ、ロンドン……「007」らしく世界各地をめぐったボンドの冒険の最終地点は日本。『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、和のテイストも魅力のひとつなのである。

ほかにも『メイキング・オブ・007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』はスタッフやキャストのインタビューに加え、オフショットやデザイン・設定画、アクションシーンの設計図など、多彩な図版により映画の舞台裏をあますところなく紹介している。

 

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