3DCG , アニメ , 映画 2020.12.21

【スカルプターズ・ムービー】西野亮廣が明かす「生き残れるクリエーター」に必要なこと

テキスト・神武団四郎

キャラクター造形やクリーチャーデザイン、撮影の舞台裏をメインに紹介する、スカルプターズのための映画コーナー。前回に引き続き『映画 えんとつ町のプペル』をご紹介。

既成の枠にこだわらない発想で多彩な活動を展開しているクリエーター、キングコング西野亮廣。その大ヒット絵本をSTUDIO 4℃が映画化した『映画 えんとつ町のプペル』が、12月25日より公開される。自ら製作総指揮・脚本を手がけた西野氏に、映画の舞台裏や創作活動に対する思いを聞いた。

12月25日(金)より全国公開 ©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会

STORY

厚い煙に覆われた“えんとつ町”。煙の向こうに“星”があるなどと誰もが想像すらしなかった。一年前、紙芝居を通し人々に星の存在を語っていたブルーノが姿を消し、人々は海の怪物に食べられてしまったのだろうと噂した。ブルーノの息子ルビッチは、学校を辞めえんとつ掃除屋として家計を助けることに。しかし父と同じく星があると信じるルビッチも、周囲から避けられるようになっていく。ハロウィンの夜、ルビッチの前にゴミから生まれたゴミ人間プペルが現れた。孤独なのけもの同士であるふたりは友達になる。そんなある日、父の紙芝居に描かれていた “船”が海から出現。父の話が本当だったと確信したルビッチは、プペルと船に乗って星を見つけに行こうと決意するが……。

お客さんに届いてはじめて作品になる

©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会

――絵本『えんとつ町のプペル』は映画を想定して書かれたそうですね。

最初から映画にしようと作ったお話なんです。でも、聞いたこともない映画を観にいく人はいないだろうと思って、物語からいくつかの章を抜き取って絵本にしました。その後、絵本が大ヒットして映画化のお話が出てきた時に「実は映画にしたかったんです」って流れです。もともと絵本に強いこだわりがあったというより、エンタメで世界をとりたいと考えていました。そのためには日本語に依存しないメディアにしようと思い、それが絵本であり、今回のアニメーション映画ということですね。

――映画のほかにも、舞台化や絵の展示会など世界がどんどん広がっています。

絵本を作る時にある程度は考えています。たとえばVR展開を見越していたので、入り込む世界の背景は充実させようとか、高低差があったほうが効果的だとか。パリで個展をやったんですが、海外で絵本の絵の展示をすると考えると、ふつうの絵本のように絵の中に日本語が入っていないほうがいい。だから僕の絵本は絵と文字のページが分かれています。絵の形もインスタを考えて正方形にしたり、ミュージカルもそうですが二次、三次と展開できないものは最初から作らない。ある意味せこいといいますか、ずるい考え方をしています(笑)。

――『映画 えんとつ町のプペル』の廣田裕介監督も、西野さんは作った先のことをすごく考えているとおっしゃっていました。

『えんとつ町のプペル』までに絵本を3冊作っていましたが、正直あまり売れていなかったんです。僕の周りにもいろんなジャンルで表現活動している友だちがいますが、すごい作品を作ったり、素晴らしい表現ができるのに売れずに辞めていく人もいました。それがあまりに悲しくて、売れるにはどうするかを考えるようになったんです。それと作ったあとは出版社に任せっぱなしだと、ある意味育児放棄だなと。お客さんに届けてはじめて作品なんだと自分の中で定義をしたら、ちゃんと届けるところまでが仕事だと思えるようになりました。いちばん自分で手売りしてる自信があります(笑)。とくに映画は多くの方が関わっているので、「あとはお任せします」なんて言えないですよ。

――脚本もご自身でお書きになっていますね。

もともと書きあげたベースがあったので、廣田監督と田中栄子プロデューサーとディスカッションして、直させてもらう感じです。ゼロからの作業ではなかったので、大変ではなかったですね。それに僕はすべての仕事の中で、物語を書く作業がいちばん好きなんですよ。表に出ることよりも何千倍も何万倍も。時間が許すならアトリエにこもってずっと書いていたいと思っているので、腰を据えて書かなければならない状況は逆に嬉しかったです(笑)。

混じりっけないド真ん中ストレートな冒険活劇

©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会

――創作活動という面で影響受けた作品や人物はいますか?

落語家の立川志の輔師匠です。師匠の落語に出会ってなければ、たぶんいまのような人生は送ってないはずですから。師匠の落語の魅力は、忖度や迎合がなくご自身が本当に面白いと思うものだけ見せてくれることですね。初めて見たのは25歳のときで、当時は折り合いを付けながらゴールデンやドラマですごく忙しい頃でした。当時は自分で意識しなくても、どこかで「仕事は消化するもの」と考えている部分があって、でも志の輔師匠の落語は「僕が面白いと思ったのはこれです!」だけでやってらっしゃる。こんなことできるんだ、とすごい衝撃を受けました。あの出会いはほんとでかいですね。

――ボイスキャストで立川志の輔師匠が出演されているのも?

僕に「こういう世界があるよ」と教えてくださった方なので、ルビッチの父親役はどうしても志の輔師匠にお願いしたかったんです。キャスティング会議でも「志の輔師匠、絶対」とゴリ押しで(笑)。師匠からは「こういう作品に挑戦する機会をくれてありがとう」とおっしゃっていただきました。一緒にもの作りをさせていただき僕としては本望ですね。

――実際に映画作りを体験していかがでしたか?

本当に楽しいだけですね。最初の段階で廣田監督、田中栄子プロデューサーと、どんな作品にするかなり話し合いました。僕から強く要望したのは、とにかく変化球はなしってこと。僕は、プロが「今日はあえてこんなことしてみました」というのが好きじゃないんです。プロだったら、ストレートを投げると宣言した上で打ちとってほしい。だから今回は、ドポップなドメジャー作品、ハッピーエンドな冒険活劇!(笑)。しかも星を見に行くという、混じりっけないド真ん中のストレートを投げました。なので制作がはじまったあとも、ちょっとでも変化球を投げてきたら僕の機嫌がすこぶる悪くなる(笑)。「こんなのいらないっすよ!」とか、声を荒げて大人げなかったなと本当に反省しています(笑)。それを飲んでくださったSTUDIO 4℃のみなさんには本当に感謝ですね。

――『映画 えんとつ町のプペル』は大きな物語の一部分とのことですが、今後何か展開は考えていますか?

映画に関しては、今回の作品で回収してないことがいくつかあるんです。たとえば、ルビッチの母親は病気を抱えていますが「ここには治す薬がない」という話をちょこっと入れたり。次は町の外に出る話をやりたいと思っていて、廣田監督にはこんな続編を考えていますとお話はさせていただいてます。その他の展開としては、後輩がミュージカルやVRをやる話がありますが、僕自身は劇団四季さんのキャッツ・シアターみたいに「えんとつ町のプペル」の専用劇場を作りたいと思ってるんです。映画は公開がいつか終わるものですが、それをなくしたい。小さくてよいので、内装はえんとつ町にしてみたり。ひとつの映画を観るための映画館が可能なのかはわかりませんが、ぜひ挑んでみたいと思っています。

仕事として続けるためにお金のことも考えてほしい

©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会

――もの作りをめざす若手クリエーターにメッセージをお願いします。

ひとつ確かなことは、過去の成功例は再現性がすごく低いということ。何かが当たったときに同じことをやったとしても、うまくいく人といかない人がいます。だからうまくいく方法をさぐるより、100%失敗することを全部リストアップして、それを絶対しないことのほうが重要だと思います。夢をあきらめざるをえない瞬間はシンプルで、お金の問題が解決できなくなった時と、集客できなくなった時のふたつです。これをクリアし続ければ、少なくとも活動はしていける。だから、その問題をどうすべきかをまず勉強すべきだと思います。お金と集客の話は商売人みたいで嫌がる人も多いんですが、仕事柄いろんな国に行かせてもらって感じるのは、お金の話をしないのは日本人くらいですね。たとえばNYで個展を開くとたくさんのアーティストさんが来ますが、契約体系はどうなっているかなど、まずお金の話がでてきます。それは金もうけのためではなく、活動を続けるための資金が必要だからです。打席に立たないことにはホームランは打てません。若い人たちには、ぜひその部分も考えてほしいですね。

CAST

窪田正孝 芦田愛菜
立川志の輔 小池栄子 藤森慎吾 野間口徹 伊藤沙莉
宮根誠司 大平祥生(JO1) 飯尾和樹(ずん)
山内圭哉/國村隼

STAFF

製作総指揮・原作・脚本:西野亮廣 監督:廣田裕介
演出:大森祐紀 アニメーション監督:佐野雄太 キャラクターデザイン:福島敦子 キャラクター監督:今中千亜季 美術設定:佐藤央一 美術ボード:西田 稔 美術監督:秋本賢一郎 色彩設定:野尻裕子・江上柚布子 CGI監督:中島隆紀 編集:廣瀬清志 音響監督:笠松広司 アニメプロデューサー:長谷川舜 音楽:小島裕規 坂東祐大 アニメーション制作:STUDIO4℃ 配給:東宝=吉本興業 製作:吉本興業株式会社