News , イベント , 桂正和 2022.04.30

【アート&イベントNEWS】『I”s』伊織の誕生秘話から『タイバニ』のキャラクター創作舞台裏、そして怪談漫画の構想まで!! 画業40周年を迎えた桂正和の本音トークが炸裂!

テキスト・神武団四郎

漫画家・桂正和の画業40周年を記念した大規模展覧会「40th Anniversary 桂正和 ~キャラクターデザインの世界展~」が5月8日まで池袋・サンシャインシティで開催中だ。『ウイングマン』『電影少女』『I”s』『ZETMAN』など数々のヒット作で知られる桂氏は、漫画家のほかアニメ『TIGER & BUNNY』のキャラクター原案やヒーローデザイン、イラスト、人気コスプレイヤーえなこの写真集 『えなこ cosplayer』で新作衣装を描き下ろすなど、多方面で活躍している。

会場は、ヒロイン作品を中心に構成した「水色の世界」、ヒーロー作品の「黒色の世界」、桂の衣装デザイナーとしての活動を実際の衣装と共に紹介した「緑色の世界」、キャラクターデザイン作品、イラスト作品を集めた「白色の世界」、『TIGER & BUNNY』シリーズを紹介した「黄緑とピンク色の世界」と、5つのエリアで構成。「黄緑とピンク色の世界」では2022年4月8日(金)よりNetflixにて全世界配信中の『TIGER & BUNNY 2』キャラデザイン画も公開され、桂ワールドの集大成というべき展示会になっている。

Interview

開催前日、4月26日の先行内覧会ではトークショーが行われた。桂氏はコスプレイヤーのよきゅーん、伊織もえと3人で登壇。詰めかけたファンや報道陣を目にして「こんなにお客さんが来てくれて、本当にありがたいです。40周年ってあまりピンときてなかったんですけど、やっててよかったなと思いました」と感慨深げに語った。『I”s』のヒロイン葦月伊織の制服を着た伊織もえは、『I”s』の大ファンだったことから自身の芸名を決めたと明かし「先生の横で伊織ちゃんのコスプレをして立たせていただくことは感無量です」と興奮気味。よきゅーんも桂作品の大ファンだけに、トークショーはふたりの質問に桂氏が答えながら進行する桂正和ショーの様相となった。

展示会の見どころを聞かれた桂氏は、会場内の各所に掲示された作品解説にをあげ「僕が書いたコメントが会場の所々にあるので、それを読んでもらうとデザインの工夫とかどうやって描かれたかが見えてきます。(当時)いかに大変だったかもよくわかりますよ」とアピール。キャラクターデザインの仕事についての質問に「こういうものが欲しいとイメージがある依頼は、そこに僕のテイストを味付けすれば方向性が見えるので比較的に楽」といい、逆に丸投げにされると1から創作しなければならないので苦労するという。キャラクター創作した代表作『TIGER & BUNNY』では、発注時点で決まっていたのは年齢感や大雑把な性格だけ。ビジュアルについては完全に「お任せ」だったため、完成までに半年もかかった。「アメコミや日本の特撮ものなどヒーローが山ほどいる中、新しいヒーローを作ろうということだったので、どれにも被らないデザインにしたかった。そんな意地があったので、ある程度の落とし所でやめたくなかったんですよ。エポック的なものにするため時間がかかりました」とふり返る。同じキャラクターを作るのでも、漫画とは発想のしかたが違うという。「漫画は話も自分で考えるので、話の内容と同時にだいたいの人現像が浮かんでくる。デザインはそれをもとに起こせばいい」

半年かけて「これだ!」と完成させた時の桂先生の姿が見たかった、という伊織もえに対し、半年かけて仕上げても不安があったと当時の心境を明かした。「やっぱり絵の段階だとよくわからないんです。アニメーションになって動いているのを見たら素敵だったんで、よかったなと思いました」


©桂正和/集英社

桂キャラクターの魅力のひとつが、3次元化を想定したかのようなリアルな衣装のデザイン。会場に展示されたデザイン画には、着用した衣装のニュアンスも記されている。実際に着ることを想定し描いているという桂氏だが、そのきっかけになったのが25年前に発表した『I”s』だった。「それまでセーラー服といえば丈が長いのが定番だったと思うんですが、葦月伊織の制服で初めてミニスカートにしたんです。目立たせないといけないという思いから、ちょっと変な制服にしたという。それ以前から私服でミニスカート+ニーソックスはあったかもしれませんが、制服に取り入れたのが僕が最初じゃないかと思います」


©桂正和/集英社

今でも新しいと思えるこの制服が何年も前に考えられたことに驚いたよきゅーんの「当時は奇抜なデザインだったんじゃないんですか?」という問いに、「これだけ短いスカートだったら屈めませんから」と笑いながら「最初にデザインした時はそこまで気が回らなかったんですが、それ以降はできるだけ細かく考えるようになりました」と桂氏。ちなみにチャックの位置については「(設定としては決めていなかったので)描くたびに違ってますが、たぶん前チャックでネクタイはボタンでついています。制服なんで着やすくないとね」と造形へのこだわりをのぞかせた。

40年間でとくに思い出に残っている出来事については「ずっと楽しいことをやって気づいたら40周年でしたが」と前置きし『ウイングマン』の連載スタート当時をあげた。「連載という現実感がないまま作業をはじめたんです。当時アシスタントがいなかったので編集からサバを読んだ締切を言われ、夜も寝ないでずっとベタ塗りしてました」とふり返る。もう二度とやりたくないと思いながらひとりで1、2話を仕上げた後、アシスタントを雇ったが、逆に気遣いする窮屈さを感じたという。「漫画家はひとりでやりたい仕事。自分の頭の中で全部完結しちゃうんで、それを誰かにやってもらうのは苦手な人が多いと思う。気を遣いかえって作業に集中できないんです」

これまで数々のヒット作を生みだしてきた桂氏だが、自身を「満塁ホームランではなく3塁打の漫画家」だという。「そんなに漫画を読むほうじゃなかったし、漫画家になったのもお金が欲しかっただけ。一本ドーンというビックヒットもないし中途半端じゃないですか。でも中学高校時代から油絵を描いていたので、漫画に出会わなかったとしても絵描きにはなっていたと思います」

桂作品の女の子が可愛くて大好きという伊織もえの「女の子のイメージはどこから」という質問には「僕の中にある女性らしい部分」と答えた桂氏。ただし葦月伊織に関しては万人受けを狙って生みだしたと明かす。「伊織はマドンナにしようと計算し、案の定そうなった」といい、だから「俺は嫌いなんだよなー(笑)。嫌いっていうか伊織は面白くない」のひとことで会場をどよめかせる一場面も。

『電影少女』のあいについては、当初は消そうと考えていたが読者の熱意に押されてラストを変更したと舞台裏を暴露。しかし予定より連載が延びた『I”s』については、最初から想定したとおり描ききったという。「一貴と伊織が両想いになるまでのお話なので、どんなヒロインが出てきても当て馬です。イレギュラーだったのは、電車の中の告白シーンで終えるつもりだったけど、続けましょうとなったこと。それって『少年ジャンプ』のあるあるだけど、結果もっといいクライマックスになりました」と裏話を披露した。

40年にわたって走り続けてきた桂氏だが、今後はこれまで手がけてきた作品との決着も構想している。「中途半端になっている『ZETMAN』の続きをやりたいですね。それと漫画が描けなくなる歳が来る前に、もう一度『ウイングマン』や『電影少女』を描いてみたい」とファンには嬉しいひと言が飛び出した。

『ウイングマン』については具体的なアイデアもあるという。「前に連載したものの続きを現代版にアレンジしてみたいんです。だからリメイクのような形だけど、僕の中では続編。すべてを忘れた健太の記憶をめぐって面白いドラマができるんじゃないかと考えています」

「やれることはなんでもやってみたい」と新しいことへのチャレンジにも意欲を見せる桂氏が最近ハマっているのが怪談。知り合いの怪談師の影響もあり、現在は怪談漫画を温めている。「怪談って一種のSF物語みたいなところがあって、イマジネーションを刺激されるんです。描くなら実話を漫画に変換してみたい。リアルで現実的な絵で、極端な演出をせずに怪談を表現できないかなって。編集者に相談したんだけど、いちど断られたんですよ、呪われたくないって(笑)」。40周年という区切りをつけたいま、これまでとはまた違う桂ワールドに出会える日も近そうだ。

展覧会開催概要

○タイトル:40th Anniversary 桂正和 〜キャラクターデザインの世界展〜
○会  場:池袋・サンシャインシティー 文化会館ビル3階 展示ホールC
○期  間:4月27日(水)~5月8日(日) ※会期中無休
○開催時間:全日10:00〜18:30
※最終入場は閉館1時間前までとなります。
※展示会場18:00閉場、物販会場18:30閉場
○入  場  料 :一般 1,500円(税込)
○主  催 :「桂正和の世界展」実行委員会
○協  力 :集英社