「ハートの女王のハサミ」!見た人を一瞬で惹きつける、 ハサミ作家✂️佐藤聖也さんのワークフローや制作メイキング大公開!【前編】

美しくもどこか恐ろしいハサミで、見た人を一瞬で惹きつける佐藤聖也さん。
ハサミの概念を超える繊細で優美な作品は、どれも一瞬で完売する人気の逸品ぞろいです。
作品づくりを始めたのは10代の頃。学生時代のジュエリーと金属工芸の授業だったそうです。
見た目だけではなく、実用性にもこだわるため、今までに作られたハサミの中には制作時間約500時間の作品に及ぶ作品も!
前編ではハサミ制作のワークフロー、メイキングと、制作時間約500時間の「ハートの女王のハサミ」の制作秘話についてお話を伺いました。

制作時間約500時間の「ハートの女王のハサミ」、メイキングを大公開!

1.スケッチ

2.正面図
3. 3DCADと3Dプリント試作を数回繰り返す

4.鋳造外注

5.1回目の最終試作品での反省点をもとにデザイン、強度、重量バランスなどを再検討
6.3DCADと3Dプリント試作を数回繰り返す
7.本番の3Dプリント→鋳造外注
8.組み立て+仕上げ

ブレードをベルトサンダーで切削

ブレードをグラインダーで切削

ステンレスは酸素と結合し不導体被膜を生成し、それが錆びづらさや強度にいい作用を与えます。
ただ不導体被膜があるとはんだ付けができないため、強酸系の薬品で被膜を除去し、生身のステンレスを露出させながらメッキ上のはんだ付けを行います。
そのうえで本体との接合をすることでしっかりとした接合が行われます。


組み立てに使用する道具

素材の銀にもこだわりぬき、試行錯誤

とにかく過去最高のクオリティのものを作ろうと思いました。
デザインは半年ぐらい。そこから3Dプリント試作を繰り返し、納得のいくところまでできたら工期とお金が多くかかる鋳造外注をし、これで持ち手は完成だ!と意気込みます。
しかし、デザインが装飾的で複雑なので変形しやすかったり、外注の鋳造工程でも難しすぎると工場から言われて改良したりを繰り返し、さらに半年ほどかかりました。
3Dプリント試作は100回以上。
鋳造テストは5回ほど繰り返す中で、適切な持ち手のバランスやブレードのカーブラインが切れ味にどのような影響を及ぼすかなど、非常に勉強になる時間でした。それにプラスして工具などの研究も含め、100万円は使っていると思います。

持ち手は銀製です。
素材としての性能は高いのですが、硫化と呼ばれる変色が起こったりします。
ロジウムメッキを施せば美しい銀光沢を保ちながら銀よりも傷が付きにくく、さらにアレルギー反応も少ないということで、ハートの女王のハサミで初めて使用しましたが、そこでも問題が多く発生しました。
シルバー(持ち手)のメッキは比較的簡単に行えますが、ステンレス(ブレード)へのメッキは難しく、専用の処理を行った上でメッキします。
ここで問題になったのは持ち手とブレードを接合した状態ではメッキ処理が行えないということでした。接合にはフラックスと呼ばれる薬品を塗った上で熱でロウ付け(450度以上の融点をもつ高強度のハンダ付け)を行っていました。
薬品と熱による酸化や変色を除去するために研磨をしたいところですが、メッキが剥げてしまうので、そこでまた新たにロウ材やはんだ付けについて勉強しました。
ステンレス向きのはんだは低融点で90℃前後の物が主流だったのですが、融点が低すぎて万が一が起これば家庭でも溶けてしまう可能性や、鉛が含まれているため想像しづらいですが接合部分を舌で舐めると危険だという安全性への心配がありました。色々探していくうちに銀はんだと呼ばれる合金が見つかり、食器にも使える安全性や200℃以上の融点をもつなど、条件にマッチしたので採用しました。メッキを侵さないように技術的な工夫をしながら持ち手とブレードの接合をクリアしました。

接着剤を使う妥協案も頭によぎりましたが、金属に対して歴史が浅く性質的に数百年の耐用年数が現実的でないこと、溶かして分離したあとパーツを交換するなどの処理が非常に難しいことから銀はんだが見つかりよかったです。

 

総制作時間500時間、費用100万円以上!
こうして出来上がった「ハートの女王のハサミ」への想い、そして他の作品群について、後編でロングインタビュー。7日19:00公開!お楽しみに!

ーーーーーーーーー後編へ続く

Profile

佐藤聖也

2017年 職人力展 教育委員長賞 受賞
2018年 北海道芸術デザイン専門学校 クラフトデザイン専攻 卒業

Twitter:@f9u6yq
常設展示ギャラリー https://shisui-tea.jp