スカルプターズ・ラボ

【スカルプターズ・ムービー】異例の大ヒット!7年がかりで完成した長編コマ撮り映画『JUNK HEAD』の過酷な舞台裏

テキスト・神武団四郎

 


主人公のバートン。バイオテクノロジーの進歩したこの時代、人類は人体の無機質転化により頭部以外は機械化されている。

 

映画界に突如出現した孤高のクリエイター、堀貴秀。
ベースになった短編を含め、7年がかりで完成させた長編『JUNK HEAD』がついに公開された。人類がサイボーグ化した未来の地球で、独自に進化した人工生命体マリガンが暮らす地下世界の冒険を描いた本作は、ディストピアテーマのSFアドベンチャー。クセの強いキャラクターと、緻密に作り込まれた世界観に圧倒される力作だ。3月26日の公開からわずか3日でパンフレットは売り切れ、現在ミニシアターランキング一位という快挙を突き進んでいる。
内装業をしながら絵や造形など創作活動をしていた堀監督は、その経験を生かし独学でストップモーション・アニメ作りをはじめた異色の経歴の持ち主だ。ハリウッドのようなエンタメ作をめざしたという堀さんに、制作の舞台裏を聞いた。

STORY

環境破壊が止まらず、もはや地上は住めないほど汚染された。人類は地下開発を目指し、その労働力として人工生命体マリガンを創造する。ところが、自我に目覚めたマリガンが人類に反乱、地下を乗っ取ってしまう。それから1600年──遺伝子操作により永遠と言える命を得た人類は、その代償として生殖能力を失った。そんな人類に新種のウイルスが襲いかかり、人口の30%が失われる。絶滅の危機に瀕した人類は、独自に進化していたマリガンの調査を開始。政府が募集した地下調査員に、生徒が激減したダンス講師の“主人公”が名乗りを上げる。地下へと潜入し、〈死〉と隣り合わせになることで命を実感した主人公は、マリガンたちと協力して人類再生の道を探る。今、広大な地下世界の迷宮で、クセ者ぞろいのマリガンとの奇想天外な冒険が始まる!

 

INTERVIEW 堀 貴秀

『JUNK HEAD』を作り始めたきっかけ

それまで絵を描いたり人形を作ったり、漫画を描くなど、いろんな活動をしてきました。どれも成功という意味ではうまくいかず、何か新しいことに挑戦したいと思っていました。ちょうどパソコンで映画が作れるようになった頃で、自分も作ってたということですね。コマ撮りにしたのは、好きだったというより人形作りもしていたので、大丈夫だろうみたいな感じ(笑)。撮影方法などは、映画作りを思い立ってから勉強しました。

 

短編『JUNK HEAD1』は国内外の映画祭で受賞するなど成功を収めました。長編版の制作資金はうまく集まったのでしょうか?

そうでもなかったですね(笑)。短編の時はひとりだったし製作費は自腹でしたが、長編となるとスタッフも必要だし資金が必要です。最初は短編をYouTubeにアップしてクラウドファンディングをはじめたんですが、思ったほど集まなかった。海外からもオファーが来たんですが、英語が苦手だしそのまま消えた感じで。その後YouTubeの映像を観たMAGNETさんから連絡をいただき、出資してもらえることになったんです。

 

スタジオは監督の自前なのですか?

もともと自営で内装業をしていて、千葉県九十九里に200坪の敷地の仕事場を持っていたんです。その建物と、材料置き場や加工用に新たに建てた大型のテントあわせて150坪くらいの作業場で作りました。だいぶ前に安く買った場所なので建物はボロボロだし、スタッフを募集しても都心から遠くて集まらず大変でした(笑)。
どんな材料を用意するかや、石膏ボードをコンクリートに見せる加工など、内装の経験が生きたと思います。配線類はくず鉄屋で手に入れたり、壊れた家屋は別のセットを解体した廃物を使ってます。ミニチュアを作って背景や壁の合成用の素材にしたり、装飾で雰囲気を変えてセットを使い回すなど、いろいろ工夫しています。


天井が崩壊するカットでヒビを描き入れる堀監督。内装業で身につけたテクニックはエイジングをはじめセット作りで発揮。

 

大きなセットなので、照明も大変だったと思いますが。

基本的にセットの外側からの照明は使わず、装飾として取りつけた照明器具にLEDを組み込んで、その灯りで照らしています。アップの撮影時は、その照明を外して近くから当てました。短編の時はLEDではなく冷蔵庫用の電球を使っていたので、全体に黄色ががってしまいました(笑)。


バルブ村のミニチュアセット。幅3メートル、奥行き5メートル、高さ4メートル。灯りにLEDを仕込み、この光を照明として使用した。

 

人形はフォームラテックス製ですか?

そうですね。フォームラテックスは軽いのと、動かした時の曲がり具合が生物に近かったので。最初はフォームをどこで入手するかもわからず、海外から輸入しました。シリコンもいいんですが、重たくなるのでほとんど使ってないですね。ただしフォームは時劣化が速いので、短編、長編どちらにも出た3バカ兄弟の人形は新たに作り直しました。最初はオーブンもなかったので手作りし、長編の時にやっと大型のものを買ったんです。人形の中には金属の骨格(アーマチュア)が入っているので、バンドソーなど金属加工用の機材も新たに揃えました。

 

動きはどうやって作ったのでしょうか。

長編はおもに僕ともうひとりアニメーターがいたんですが、基本的にまず自分たちでキャラクターの演技をして、それを同じ画角でビデオカメラで撮影。その映像を見ながら、トレースするように動かしていったんです。2Dアニメでいうロトスコープと同じ感覚ですね。コマ撮りをする人たちからすると邪道に思えるかもしれないですが。
短編の時はビデオカメラを持ってなかったので、頭の中で動きを想像しながらアニメートしました。動きでいえば、長編はソフトウエア上でモーションブラーをかけています。ふつうコマ撮りはやらないことが多いんですが、実写の映像は自然にブラーがかかりますから。


フォームラバー製のドクター・ルーチーのもとで働く3バカ兄弟。ひとつのマリガンの種子を3つに分割して生み出された、おかしな三つ子。

 


ハンドパペットを装着した堀監督(手で少しずつ動かしながらコマ撮り)。背後に見えるのは合成素材用のミニチュアで、高さ約4メートル。

 

キャラクターは特殊な言語で話しますが、声もほとんど監督が演じていました。

口の中にティッシュ詰めたり、筒の中で声を出し反響で太くしたり、なるべく変化持たせつつ。それも限界があるので、編集ソフトで音程を変えたりしています。セリフはきちんと言語を考えようと思ったんですが、あまりに大変なのでその時々の雰囲気ですね(笑)。内容に合った長さや語感など、その場で考えながら。途中から何かネタを入れようと、ディズニーのキャラクターの名前を連呼したり、日本語でへんなことをしゃべってます(笑)。

 

ストーリーから仕上げまで全工程を手がけていますが、お好きな作業、苦手な作業はありますか?

どの作業も楽しいし、好きですね。難しいのはストーリー作りです。やっぱり映画はストーリーが大切だと思うので、そこは悩むし苦しいですね。ストーリーを作るにしても、コマ撮りという制限があるので、実際にどう撮影するかを前提に考えるのが悩むところです。


サウンドエフェクト制作風景。クリーチャーに使用する音をハンマーで卵を叩いて録音。たいへんそう、というより寒そう。

 

堀監督の実写指向について

もともとめざしたのはハリウッドのような映像をコマ撮りで作ることなので。コマ撮りは大きく分けて2種類あると思うんです。ひとつは味のある動きのアート系作品で、コマ撮りというと最近はこれを指すことが多いですね。もうひとつは撮影できないものを表現する特撮としてのコマ撮りで、職人的な人たちが実写の中に組み込むために作ってきたもの。たとえば『ジュラシック・パーク』も当初はコマ撮りで恐竜を撮る予定でしたが、CGの実用化で変更され、いまは使われなくなりました。同じコマ撮りでもアート系と特撮系は表現がまったく別ものなんですね。自分がやっているのは後者ですが、通常コマ撮りは特撮部分にしか使われません。特撮方向のコマ撮りで長編を作ったのは『JUNK HEAD』が初めてじゃないかなと思っていて、そういう意味でこれまでにない作品になったと思います。


ロケットランチャーで攻撃された生命の木の母体を撮影中。爆破の閃光はライトの強度をひとコマずつ変えながら撮影された。

 


主人公の銃撃カットを撮影中。使用したカメラはEOS Kiss X7が4台、アニメーション制作ソフトはDragonframeを使用。

 

長編版はすでに海外の映画祭で賞を獲りましたが、ギレルモ・デル・トロ監督も称賛しています。

実はデル・トロ監督と共通の知り合いがいるんです。『シェイプ・オブ・ウォーター』で監督が来日した時に試写会で登壇したんですが、僕もその会場にいたんです。知り合いがそれを監督に伝えたそうで、壇上から「ホリサン、いますか?」とデル・トロ監督から声をかけていただいて。びっくりして座席から手を振ったんですが、感激で映画の中身はまったく覚えてません(笑)。

 

次回作など今後の予定

『JUNK HEAD』は当初30分の短編10本で完結と想定していましたが、あと長編2本、3部作で完結の予定です。2作目の絵コンテまで完成していて、あとは撮影をはじめるだけという状態です。次は部分的にCGを使ってキャラクターの目を描きたいと考えています。コマ撮りの人物表現で目はとくに難しく、へたするとお人形っぽくなってしまいます。CGを使うことで、どれだけ効率よくリアルな表現ができるか試したいですね。『JUNK HEAD』以外では実写のストーリーも4本ほど書きました。予算次第ではありますが、ひとつ考えてるのが社会派のゾンビもの。コマ撮りに比べ実写は制作期間が短いので、『JUNK HEAD』の合間に撮りたいと思っています。


グリーンバックの前、巨大なパイプの穴から頭を出した主人公のアニメート中。パイプや配線は廃材を入手し加工して使用した。

 

 

PROFILE

堀 貴秀 Takahide Hori

1971年生まれ、大分県出身。内装業をする傍ら、アートワーク専門の仕事で独立。2009年より短編ストップモーション・アニメ『JUNK HEAD 1』の制作を開始。2013年に完成し、クレルモンフェラン国際映画祭アニメーション賞を受賞。ゆうばりファンタスティック映画祭の短編部門グランプリに輝く。2015年に株式会社やみけんを設立し長編『JUNK HEAD』の制作に着手。2017年に完成し、ファンタジア国際映画祭最優秀長編アニメーション賞、ファンタスティック映画祭新人監督賞を受賞する。

STAFF

監督・原案・キャラクターデザイン・編集・撮影・照明・音楽・絵コンテ・造形・アニメーター・効果音・VFX・声優:堀 貴秀
音楽:近藤芳樹 制作:やみけん 配給:ギャガ 製作:MAGNET

 

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