【原型師INTERVIEW】ディテールより、精神性とか時代性を大事に  XM STUDIOS「Ultraman(C Type)」藤本圭紀インタビュー

テキスト:幕田けいた

スカルプターズ・ラボ注目のフィギュアの原型制作について紹介する【原型師INTERVIEW】!

今では海外でも人気となっている、エヴァーグリーンのビッグコンテンツ『ウルトラマン』。今回、海外ブランドのXM STUDIOS から、60㎝サイズのスタチュー「Ultraman(C Type)」が発売される(Cタイプとは初代「ウルトラマン」の撮影に使われた最後期のマスクで30~39話に使用されたもの。このCタイプが、その後に続くウルトラマンマスクの基本型となっている)。もはや本物そっくりのスケールモデル的なニュアンスを超えた「造形美術」ともいえるクオリティの原型製作を担当したのが藤本圭紀さんだ。藤本さんは子ども時代からウルトラマンの大ファンだったが、造形のテーマにしたのはつい最近の話。その藤本さんに、さまざまな思い入れを伺った。

INTERVIEW 藤本圭紀

——藤本さんが一番お好きなウルトラマンのマスクは、実はAタイプだとか。

思い出深いのはAタイプですね。子どもの頃に一番好きだったエピソードで活躍していたのがAタイプなんです。まあ、A、B、Cタイプそれぞれ思い入れが違うんですよ。最近は、Bタイプが好きです(笑)。

——ウルトラマンは、昔から作ろうと考えていたんですか。

いや、全然、考えてなかったんです。実は、クロスワークスさんで、初めてウルトラマンのガレージキットを作らせてもらった時はビビっちゃったんです。まだまだ俺にはウルトラマンは作れねえ! というプレッシャーを感じた(笑)。ウルトラマンは、造形として一番難しいキャラクターだと思ってるんですよね。それは今でも変わらないですし、それだけのスキルが自分にはあるんだろうかっていう怖さもあるんです。この業界に入ってからも、ウルトラマンとは距離を置いていたというスタンスでした。

——ウルトラマンのマスクは、本当に微妙なバランスで成り立ったデザインですが、こうした原型を制作するときに一番難しいところはどこですか。

顔のバランスは今でも気になりますよね。造形物は、監修で円谷プロさんに意見いただきますので、そこで気付かされるところもあります。ウルトラマンを作ると、やっぱり、まだまだ自分は見る目が足りないなって気持ちになります。

——造形資料に使うのは?

スチール写真や映像です。手に入るものは出来る限り参考にしますが、とくに映像は繰り返し見ますね。

——ウルトラマンのスチールや映像を見ていると、ほんのちょっとのライトの当たり加減で、まったく違うイメージになっちゃったりしますよね。どんなに注意深く見ても、次のカットで違うものになってたりする。

そうなんです。撮影の条件によって、どういうふうに見えるかが変わってしまう。ウルトラマンの顔も、一見単純な形なんですけど実はすごく複雑な面構成になっています。単純にいうとボコボコしてるんです。それが色んな表情を産むわけですね。全体的なフォルムもそうですね。様々なスチールや映像の資料から、自分が見ている角度の基準をしっかり意識しないとそのフォルムも根本的に狂っちゃうんです。

——でも映像やスチール写真だけでなく、当時の撮影環境を分析したり、研究するとキリがない感じですね。

そうなんです。当時のカメラのレンズやライティングの話になり出すと終わらなくなってしまう……ただ、ちょっと待てってなるんですね。自分が作るのはレプリカではない、あくまでフィギュア、スタチューだと。ですからプロップのトレースではなく、「劇中のイメージを彷彿とさせる」というフィギュアとしてのエンターテイメント性が目標ですね。

——フィギュアを、どの角度で見るかでもイメージは変わってきます。

色々な角度で眺められるということはフィギュアの利点といいますか、立体物だけが持つ大きな魅力でしょうね。
そこの追求はデジタル造形だけだとなかなか難しいところです。

——立体物として出力したらイメージが違う場合も?

データ通りではあるんですよ、自分自身がちゃんと「見れていなかった」というだけで(笑)。3DCGではなく立体物であるということを常に意識しておかなくてはいけないな、と思います。
デジタル造形の難しいところですが、やはりモニターを見ながらの造形だけですと、無意識のうちに見る部分、見る角度を限定してしまっている。結局立体物ですので、例えば机や棚に置いて眺めた時、手に持った時にちゃんと気持ちいい形になっているかっていうところを忘れてはいけないなと。ついつい忘れてモニターの中だけでいい感じになっている気でいると痛い目を見るんです(笑)。
加えて今回のウルトラマンはサイズが大きくて、原寸での仮出力は現実的ではありません。それでもやはりモニター上でデータを確認するだけでは、限界がある……だから最近はVR(Oculus Quest 2)を使って、データを実際のサイズで確認したりしました。
VRですと手に持ってグルグル眺めることができますので、そこはアナログの感覚に近いですね。

——VRは使ってみていかがですか。

かなりイメージは掴みやすいです。使ってみて感動しましたね(笑)。VR含めいろいろな3Dソフト(といってもZBrush、Geomagic Sculptくらいですが)を通して見れば見るほど、修正点が見えてくる。それでも可能ならば仮出力するのが一番です。今回はサイズを縮小して3回、Form2で仮出力しましたね。

——それだけ実物のウルトラマンと頭の中のウルトラマンが違うってことなんでしょうね。

そうだと思います。たとえばゴジラもそうなんですけど、スチール写真や映像のカットによってイメージが違うじゃないんですか。その色々違う実物の写真を頭の中でトータルしたキャラクターイメージの、最大公約数みたいなところがフィギュアなんだと思います。

——3回出力されたというのは、どの部分ですか?

プロポーションの確認のためで、ウルトラマン本体ですね。どんなモチーフもそうだと思いますが、フォルムや重心、シルエットに一番時間をかけます。

——物心つかない頃に見たものって、凄くカッコよく見えたり、巨大に見えたりしているんですが、大人になって見直すと、大したことなかったなんてことってありますよね(笑)。フィギュアなどの造形物も、ファンが持って入るイメージが重要になってくると思うんですが、そこはどのように辻褄を合わせていますか。藤本さんが最も注意しているところは?

ディテールの話よりも空気感というか、そのキャラクターの精神性とか時代性を大事にしています。それをどうやって造形に盛り込むかっていうのは、まだ明確な答えがないんですけど、敬意を持って造形に接すると、おのずと空気感が出てくるのではないかと感じますね。

——造形作業で、なにか特別にやっていることはあるんですか。

ウルトラマンを作る時は80年代の音楽を聞いたり、ビデオやテレビCMを見たりしているんです。僕は『ウルトラマン80』以降、テレビでのウルトラマンが途絶えてしまった再放送やレンタルビデオ世代です。リアルタイムではありませんが、ファーストコンタクトは初代ウルトラマンの再放送でした。
その時、ウルトラマンをカッコいいと思っていた楽しい気持ちの記憶、初期衝動を思い出しながら作業しているんです。

——ああ、造形物に、カッコいいと思う気持ちが入っているわけですね(笑)。たしかに空気感を作るには、気持が大事ですね。本物を完全に縮尺してデータ上はリアルに見えても、カッコ良いかどうか、分からないみたいな造形物もありますものね。

リアルで本物そっくりなんですが、ある部分、ファンのイメージ通りにデフォルメされたホビーのフィギュアとしても成立させないといけないと思うんです。「似てないけど、これすごくらしいよね」っていう造形もあったりして、似てるだけじゃ違うんだなっていうのも最近、感じています。これは、すごく考えさせられますね。

——これから作りたい作品はありますか。

作りたいものでいうと、やはりAタイプですね(笑)。ただ悩んでいるのはポーズなんです。作るべきは、Aタイプの商品によくある素立ちなのか、登場シーンなのか、スペシウム光線なのか、構えている格好なのか。良いポーズを探したいとなと思っていて、これが! というのが見つかれば、すぐに作り始めちゃうと思います!

——楽しみにしています。ありがとうございました!

PROFILE

藤本圭紀

大阪市出身。もともと模型や粘土好きで、何かと作っている少年だった。本格的に造形を開始したのは大阪芸術大学彫刻科の一年生の頃。自分にも作れるかもしれないと思い、ティンカーベルとジュリー・アンドリュース(『サウンド・オブ・ミュージック』)を制作。
卒業後、好きな商品を数多く手がけていた株式会社エムアイシーへ入社。この頃は玩具業界に携わりたい一心だった。就職してから、より原型師というものを意識するようになる。入社当時はデジタルもしつつ、アナログメインで造形。商業原型を手掛けつつ、2012年からオリジナル造形を開始する。
2015年、豆魚雷AAC第3弾に選出。もっと自分の活動を広げたい、色々なことに挑戦したいという思いから、2017年よりフリーランスとして活動開始。この独立を機にほぼデジタルに移行した。今後、原型はもちろん、映像の世界やキャラクターデザイン等、チャンスがあれば新しいことにどんどんチャレンジしていく予定。

Twitter:@YOKKI_munchkin_

幕田けいた

大衆文化研究家 書評家。主な著書に「ウルトラマンをつくったひとたち」(共著/偕成社)、「ジュール・ヴェルヌが描いた横浜―「八十日間世界一周」の世界 」(共著/慶應義塾大学教養研究センター)。最近の仕事では雑誌「Pen」の特集「ウルトラマンを見よ」で執筆。

製品情報

製品名:Ultraman(C Type)
サイズ・重さ:40*40*63cm,10kg
制作:XM Studios