スカルプターズ・ラボ

観る人の心に刺さる“違和感”を持ったエンターテインメントの世界 YOASOBI「群青」MVの舞台裏

テキスト:神武団四郎 取材協力:大内雅未(「群青」MVプロデューサ ー)

いまもっとも注目を浴びているアーティスト YOASOBIが、人気コミック「ブルーピリオド」にインスパイアされた「群青」。夢をめざすことへの戸惑いや葛藤をテーマに、多くの共感をよんでいる今作のMVを手がけたのが映像ディレクター、アートディレクターとして数々のMVやCMを手がけている牧野 惇さん。手作りのパペットを使って個性豊かな世界を展開したMV制作の舞台裏についてお話を伺った。

 

INTERVIEW 牧野 惇

ミュージックビデオ「群青」に参加したいきさつ

山口つばさ先生の「ブルーピリオド」を使ったブルボン「アルフォート」のCM演出を担当していた流れですね。まずYOASOBIの「群青」を使ったCMをやらせていただき、そのままMVも演出させていただきました。最初は「ブルーピリオド」の絵を使おうと思っていましたが、すでにクリープハイプの「栞」とコラボしたMVがあったので、オリジナルで作ることになりました。

 

女性ダンサーと隕石落下というアイデア

主人公の女性は、演劇をモチーフにした「群青」の ジャケット(イラスト:藍にいな)がベースです。何をさせるか考えた時に、お芝居よりダンスの方が面白いだろうとダンサーに変えたんです。「ブルーピリオド」は主人公の葛藤が描かれてるので、ダンサーの葛藤を描こうと。それまで見たYOASOBIのミュージックビデオは、内面的な話が多い印象だったので、僕は内側ではなく外からの葛藤で考えました。 ライバルのダンサーと競い合うとか、いろんな可能性を書き出すなかで隕石落下というストーリーにたどり着いたんです。

世代的な差もあるでしょうけど、夢を目指している時に諦めろと言われたら、世界が終わるような気持ちになるんじゃないか。そこから地球が壊れる=隕石ですね。心のモチーフとして、隕石には女性の生きている世界がデザインされ、その中心に彼女がいる。インパクトとして、隕石落下というアイデアを思いつきました。エンターテインメントの要素があって面白くなるかなと(笑)。


ダンサーが踊るステージのサイズは、横2メートル、高さ1メートルほど。「ミニチュアは人間の目線で見るから楽しいわけで、縮尺に合わせて低い目線から見ると素材のアラが見えて面白くない。だから大きく見せたいものは、できるだけ大きく作るようにしています」

 

MV制作における発想法

MVの仕事が始まったら、他の曲は聴きません。iTunesも全部切って、今回だと「群青」だけをずっと聴く。僕はもともと理系なので、感情の部分ではなく考えることで作っていきます。たとえばダンサー、ライバルを出す、面白くない……といろんな要素を書き出しては排除するのくり返し。AではなくBでもないからCとか、数学の証明みたいな感じで組み立てます。ただし今回はCMの仕事で「ブルーピリオド」をすごく読み込んでいたので、その点いつものMVの流れとはちょっと違いましたね。

 

個性的なキャラクターデザイン

主人公のベースになっているのは猫です。猫って目を合わせると逃げちゃうけど、時々甘えてくるじゃないですか。僕は犬派なんですが、猫の「気にしてない素振りをするけど構って欲しい」みたいなところが好きな人の心理に訴えたというか(笑)。だから目も縦目にしました。その流れでウサギやヤギだったり、人物は動物がベースです。はじめのデザインはもっと優しい感じでしたが、それだとパンチがないなと。経験上、綺麗な顔は記憶から抜けやすいんです。CMもそうですが、 綺麗なだけのキャラクターが並んでいると個々の違いがわからない。何か違和感がないと残らないし、感情移入できないと考えています。あえてほくろをいくつも付けたりして、結果この顔になりました。ちょっと怖いという意見もありますが(笑)。

 

絵の作業

今回の絵の描き方は少し特殊で、下描きを絵にしていきました。まず下絵をワーッと描いて、この線ちょっと太いなと思ったらそれを消しゴムで削っていく。そうして残ったのが今回の絵で、だから線が何本もあるんです。髪の毛先も消しゴムで消しながら整えました。どこか違和感のあるキャラクターには、この粗くて鬼気迫る感じが合うなっていう。使った絵は95枚、絵の作業日数は10日ですね。

絵はすべてPhotoshopとWacomのペンタブ Cintiqで描いています。以前は紙に描いていましたが、絵の具を使って波打った紙の修正など取り込んだ後の処理が大変で。ふだん使うブラシはPhotoshop標準のものだけで、外出時にはiPad Pro 12.9インチでPhotoshopを使っています。Apple Pencilはすごく感度がいいので、この画面サイズなら十分使えますね。


牧野さんによる絵コンテ。左からカット番号、必要な映像、場面や動きの説明、映像を合わせる歌詞。

 

クラフト人形の制作

絵を描いたあと、動きに合わせてレイヤーでパーツごとに切り分けます。そのデータを美術さんがプリントアウトしてスチレンボードに貼りつけ、側面を黒く塗ったり質感を出したり修正してもらっています。絵のサイズは扱いやすさからA4がベース。サイズ的に足りなかったらA3、A2と大きくする感じで、 最終的な出力サイズは美術さんにお任せです。 材料はスチレンボードとビス、印刷するのはコットンライフという布と和紙の中間くらいの紙で、ずっと同じやり方ですね。以前作った人形を美術さんにお渡しして、あとは動きに合わせて調整して作ってもらいます。どこをどう動かすかなど、細かい指示書は制作の太陽企画さんが作ってくれるので助かってます(笑)。

クラフトのほかに生身の手も登場しています。これまでも人の手を使ったことがありますが、今回は操り師の手でなくキャラクターの一部にしているのが違いです。水滴の演出を使うには紙以外の素材が必要というところから、別の質感を入れる面白さに変わっていった感じですね。


人形たちは出力した牧野さんの絵をボードに貼り付け、美術チームが作製。ただ印刷した絵を貼るのではなく、縁の処理や質感を出す細かい仕上げ、動きに合わせて可動部の隙間を調整するなどさまざまな工夫が盛り込まれている。最後の絵が完成したのは撮影直前で、美術チームは撮影当日も制作に追われていたとか。

 


人形やビルなど撮影素材はスチレンボードに、牧野さんの絵を印刷した特殊紙コットンライフを貼って作製された。ビル群の中には見慣れたシルエットの建物も。「見ている人がよく知っている物を入れるのが僕のこだわりのひとつ。今回は牛乳パックでとお願いしました」。白い旅客機はプラモデルが使われた。

 

地球に衝突する隕石のクラフトモデル。隕石は心のモチーフのため、主人公であるダンサーを中心に彼女が生きている世界がデザインされている。「隕石が落ちてくるというすごい展開なので、絵コンテを提出する時に怒られないかドキドキしました(笑)」

 

 

人形の操作と撮影

人形は僕がメインで操り、アシストする人と2人体制が基本。経験上こうすればより表情が出るなという部分は僕が動かすようにしています。大がかりなところは8人体制で、今回はプロデューサーの大内雅未さんはじめ、太陽企画のスタッフさんが動かしてくれました。

撮影はキャラクターごとに撮って合成しています。ひとつのキャラクターでも、体と手などバラバラに撮ったカットが多いですね。人形は動きのタイミングが難しく、顔がよくても手が変だとやり直しになってしまうので。コンテに沿ってカットごとに必要な素材を撮っていくので、今回だと全部で450テイクくらい。撮影は2日間なので、1日目の段階でやばい終わらないって焦りました(笑)。

汎用性がある人形を使う時は、少し長めに撮影し他のカットに入れたりもします。でも今回は、カットに合わせパースを付けた人形を作るアニメーションに近いやり方なので、汎用性は少なかったですね。 おかげで作業は大変でしたが、結果的にいい感じになったかなと思います。


画面の四方から主人公のダンサーのパーツがフレームインしてひとつの絵になるカットは、あらかじめ位置合わせしたパーツが分離していく映像を逆再生して作られた。ひとつひとつのパーツは1メートルほどのサイズがあり、8人がかりで操作された。

 


撮影風景。キャラクターやパーツごとにグリーンバックの前で撮影して合成される。2日間(48時間)をかけ450を超えるカットが撮影された。ダンスを踊る主人公の両手を操っているのが牧野さん。主人公が曇った窓に絵や文字を書く手は太陽企画の川瀬万由未さん。

 


キャラクター、背景、手前のタクシーの扉、窓ガラス、ガラスに映り込んだ照明、ガラスの曇りに文字を書く人間の手など、別撮りした素材が合成される。ガラスの雨粒は透明のボードに霧吹きで水滴をつけブロアーで吹いた。「雨粒までは想定内だったんですが、光(照明)もとてもカッコ良く出来て驚きました」

 


隕石の落下カットは、丸いボードに地球の絵を描いた布を貼って撮影。陥没する箇所には穴が空けてある。「穴の裏側から布を引いたらタイミングよくボードが割れて、いい感じになりました」。 落下地点を日本にしたのは、歌詞に「渋谷」が出てくること、そして架空の国にすると街並みを一から考える必要があるため。

 


素材を作らず絵だけで処理されたカットもある。「地球が崩壊するところは撮影をせず絵で処理しています。人形は絵で、地球や星、人形を操る棒などは、他の撮影素材から切り抜いて持ってきて、ドロップシャドーを落として立体的に見せました」。車が渋滞しているシーンも、タクシー以外の車やガードレールなどは撮影せず絵で処理された。

 

MVの制作スケジュール

MVの制作期間は2か月くらいが多いですね。今回は2020年9月25日に演出コンテが上がり、準備をして撮影したのが10月27、28日。ギリギリ前日に無事完成して、12月1日にオンエアされました。「アルフォート×YOASOBI Special Movie 『群青』 inspired by ブルーピリオド」が9月に公開しているので、今回の「群青」MVのほうが後の公開となりました。

 

好きな映画監督

ギレルモ・デル・トロさん、僕大好きなんです。最近だと『シェイオプ・オブ・ウォーター』が良くて、特にモノクロの映像でダンスするシーンがとてもきれいでよかったですね。それに影響されまして、キリンビバレッジさんの「麦のカフェ CEBADA」という商品のCMをつくった時、出演されたモデルさんの肌色を残してあとは白くしようと思っていたんですが、結局飲み物だけ色を残して、 モノクロにしました(笑)。


牧野さんはいつも分厚いノートを持ち歩き、思いついたアイデアやコンテの下描き、キャラクターデザインなどを描き込んでいる。まるで「ギレルモ・デル・トロ創作ノート」。

 

心掛けていること、大切にしていること

やっぱり観た人に面白いと思ってもらえることは絶対に大事ですね。以前クリエイティブディレクターの宮田識さんとCMの仕事でご一緒した時に、「CMはお約束のように商品を映すのではなく、見た人に興味を持ってもらうこと」と言われたんです。その言葉を大切にしていて、今回でいえば隕石が落ちてくるってちょっとドキドキんじゃないかって(笑)。目で見て楽しめるエンターテインメントの要素を入れること、それは常に心がけています。

 

PROFILE

牧野 惇 Atsushi Makino
1982年生まれ。2006年よりチェコの美術大学UMPRUMのTV & Film Graphic学科にてドローイングアニメーション、パペットアニメーションを学んだのち、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーションコース修了。

実写・アートワーク・アニメーションの領域を自在に跨ぎ、映像ディレクション、アートディレクションから、アニメーションディレクション、キャラクターデザイン、イラストレーションまで総合的に手掛ける。

誰しもが持ち合わせるような心くすぶるノスタルジックなモチーフ感やスケール感を根底に、現代的かつ高感度なアイデアやギミックを併せ持ち、制作物とその鑑賞者との距離を至極好意的に縮めることを可能にする。
そのスタイルは、単なる「アナログ表現」や「クラフト感」と評されるに止まらず、それを超えた圧倒的な存在感を放つ。

Annecy(フランス)、Golden Kuker-Sofia(ブルガリア)、ANIFILMなどを始めとした国際映画祭での受賞/招待上映や、ACC、AD FESTなど広告祭での受賞多数。 2017年、CJ E&M Corp.(韓国)が主催するアジア最大級の音楽アワード「Mnet Asian Music Awards」Professional Categoriesにおいて、Best Video Director of the yearを受賞。 2018年には第61回 ニューヨークフェスティバルにて、金賞 (World Gold Medal) を受賞。

STAFF

企画:牧野惇 ディレクター:牧野惇
撮影:赤松亨 照明:鈴木馨悟 美術:河野朋美 立体アニメ・操演:牧野惇 編集:牧野惇/田端俊朗 プロデューサー:大内雅未 プロダクションマネージャー:松井理紗、川瀬万由未、謝 硯如
制作プロダクション:太陽企画

 

楽曲情報

2020年9月1日(火)配信リリース
「群青」
■配信URL:https://orcd.co/gunjo

アーティスト情報

YOASOBI
Official Site:https://www.yoasobi-music.jp/
Twitter:https://twitter.com/YOASOBI_staff
YouTube Channel:https://www.youtube.com/c/Ayase0404
TikTok:https://www.tiktok.com/@yoasobi_ayase_ikura