【原型師INTERVIEW】古い新しいで測れない普遍的なデザイン ——ウルトラマンの原典となるデザイン

テキスト:幕田けいた

現在、大ヒット上映中の劇場用作品『シン・ウルトラマン』。映像的な注目点は、登場するウルトラマンや禍威獣、外星人が、CGを使って表現されているというところだろう。また主人公のウルトラマンのデザインも、オリジナル版にあったカラータイマーなどがオミットされている。これは66年の番組制作時、「3分間しか活動できない」という物語設定を分かりやすくかつ緊迫感を伴って表現するために加えられた装置で、美術を担当した成田亨のデザイン画には、そもそもカラータイマーがなかったのだ。『シン・ウルトラマン』のウルトラマンは原典となるデザインに立ち返り、成田が1983年に描いた油彩『真実と正義と美の化身』をベースに形作られている。この新たなウルトラマンを、立体物として造形したのが原型師の藤本圭紀さんだ。その想いを伺ってみた。

※本作は成田亨氏の絵画「真実と正義と美の化身」に着想を得て制作した、映画『シン・ウルトラマン』ウルトラマンのファンアートです。

INTERVIEW 藤本圭紀

——藤本さんの「シン・ウルトラマン」はガレージキットやマスプロダクトの商品の原型ではなく、純粋に造形物として制作されています。作ろうと思ったきっかけを聞かせてください。

『シン・ウルトラマン』の制作が発表されて、雛形も発表された瞬間に「あ、作ろう!」と。最初はカラータイマーがないというよりも、プロポーションに違和感を持ったのですが、すぐにその「普通じゃない」バランスに惹かれていくのを感じました。おそらくスーツアクターの古谷敏さんの体形をベースにしていると思うんですけど、なんというか「当時感」をすごく感じるというか……昔の児童書などに載っていたウルトラマンのイラストとかを想起させるような、懐かしい気分になったんです。当時、生まれていたわけでもないのに(笑)。そうなると単純に立体物が欲しくなりますので、すぐに造形しようと決めましたね。それと同時に「公開に合わせて自分も何かしたい!」という一ファンとしての気持ちの高ぶりを、なんとか形にしたい、という気持ちにもなりました。

 

——手を加えられたその後のウルトラマンではなく、成田亨さんのウルトラマンを作りたかったんですか。

この造形を手掛けたことで、成田さんのデザイン性の素晴らしさを再確認しましたね。立体の造形は「シン・ウルトラマン」に合わせてはいますが、手の大きさなどは成田さんの『真実と正義と美の化身』を元にバランスを変えてます。

——実際に作られてみて、番組の中のスーツのウルトラマンとどう違いましたか?

体が皮膚なのかスーツなのかっていうのは、ずっと言われている部分ではあるんですけど、そんな理屈を付けるよりも人間には分からないものだと捉えて作りましたね。そっちの方が面白いでしょうし。最初は、ちょっと戸惑いましたけど、割と楽しく作業できました。

——色はどうでしょう?

色は映画のイメージで、ちょっと青っぽい赤と、ギラついてない銀色っていうのを考えました。なかなかこの銀も難しくて、普通に銀を吹くと凄くギラついてしまうのですが、銀の上にホワイトパールを吹いたんです。そしたらいい感じにしっとりと落ち着きました。

——結構、映画でも銀の表現が難しかったらしくて、成田さんが考えていた鏡面のような銀だと、空を飛ぶと青空が反射して青くなってしまうと、CGの検証で分かって苦労したそうです。

鏡面の銀も、ちょっと塗ってみたくなってきました(笑)。ただそうなるとウルトラマン感はなくなってしまうのかなとは思います。

——藤本さん的にはデザインはどうでしたか。50年以上前のデザインですよね。

いや、古い新しいで測れるものじゃなくて普遍的なデザインですよ。こんなデザインできないよって、今でも思いますし。今回の造形のおかげで、今まではあたり前だと思っていたウルトラマンも一回リセットして、成田デザインを、より新鮮に見られた感覚がありました。原点に戻るみたいな感覚。「何、このライン!」とか「赤と銀で!」とか凄い体験でした。造形物の立ち方も、成田さんの『真実と正義と美の化身』を意識しました。作り始めた当初は、腰を入れていた立ち姿だったんですよ。いわゆる「フィギュア立ち」です。でもフィギュア的、アニメ的な考えは必要ないなという結論に至り、静かにスッと立っていて、同時にちょっと動きのあるイメージになりました。どっちかというと彫刻作品に近いですね。仏像的な美しさや、カッコつけてない優しさみたいな感じに落ち着いたんです。これが1966年に作られたデザインだとは、考えられないです(笑)。

——なるほど、彫刻作品ですか。

成田さんが目指していたものは、あれこれ理屈つけてないと思うんですよ。最初に、こういう形を求めていたのかと考えると「今後、もう出てこないんやないか」というくらい凄いキャラクターです。これはウルトラ怪獣にも言えることなんですけど、「彫刻作品が動いている!」感覚があるかもしれないですね。

——作ってみて、そういうことだったのか! というところはありましたか?

一番は手の伸ばし方ですかね。これは、ただ伸ばしてるだけじゃなく、ひじの開き具合とか手の握り具合とかかなり考えましたね。何か掴もうとしているのか、何かを訴えているのか。たどり着いたのが「慈しみ」なんじゃないかと。そういうニュアンスで制作していました。

——当たり前と思ってみていたデザインが、元はこんなにシンプルだったんだっていう驚きもありますよね。

しかもヒレもカラータイマーもなくても、違和感を感じないですからね。初代ウルトラマンはドラマの中の登場シーンの時、カラータイマーが付いていないじゃないですか。あのシーンにリンクしているので、カラータイマーがないウルトラマンにも、そこまで違和感がないのかも。

——背中のヒレがないのも新鮮で面白い。

綺麗で不思議です。この銀のラインはヒレありきのデザインに見えていたんですけど、本来、ヒレがなかったって思ってみると、本当に面白い形ですよ、これ。

 

——子供の頃に親しんだものに、改めて驚かされるのは本当に凄いことですね。子供の頃に見ていて卒業していくものと、大人になっても好きなコンテンツってあると思いますが、この二つは何が違うと思いますか。

「ウルトラマン」は童話というか、優しい世界じゃないですか。そういうのがあるから大人になっても残るんじゃないかな。「ゴジラ」は畏怖の感じがして、また違う存在ですし、「エイリアン」は、もっと現代的な感覚に迫るものがあると思うんですけど、「ウルトラマン」は、大人の中にある子供心に住み着いてるのかなと。

——藤本さんはウルトラマンの造形を手掛けるとき、子どもの頃、ウルトラマンに憧れていた時代の音楽などを聴くそうですが、ちなみに「シン・ウルトラマン」を作っている時のBGMは?(笑)

この時も80年代のCM音楽を流していました(笑)。

——今後の藤本さんのオリジナル造形にも影響を与えそうですか。

もしかしたら影響はあるかもしれないですね。基本的に自分の作品でも「彫刻的な美しさ」は意識する部分なので、 そこは共通する部分かなと思いますから。

——ありがとうございました。次回作にも期待しています!

PROFILE

藤本圭紀

大阪市出身。もともと模型や粘土が好きで、何かと作っている少年だった。本格的に造形を開始したのは大阪芸術大学彫刻科の一年生の頃。自分にも作れるかもしれないと思い、ティンカーベルとジュリー・アンドリュース(『サウンド・オブ・ミュージック』)を制作。
卒業後、好きな商品を多く手がけていた株式会社エムアイシーへ入社。この頃は玩具業界に携わりたい一心だった。就職してから、より原型師というものを意識するようになる。入社当時はデジタルもしつつ、アナログメインで造形。商業原型を手掛けつつ、2012年からオリジナル造形を開始する。
2015年、豆魚雷AAC第3弾に選出。もっと自分の活動を広げたい、色々なことに挑戦したいという思いから、2017年よりフリーランスとして活動開始。この独立を機にほぼデジタルに移行した。今後原型はもちろん、映像の世界やキャラクターデザイン等、チャンスがあれば新しいことにどんどんチャレンジしていく予定。

Twitter:@YOKKI_munchkin_

幕田けいた

大衆文化研究家 

書評家。主な著書に「ウルトラマンをつくったひとたち」(共著/偕成社)、「ジュール・ヴェルヌが描いた横浜―「八十日間世界一周」の世界 」(共著/慶應義塾大学教養研究センター)。最近の仕事では雑誌「Pen」の特集「ウルトラマンを見よ」で執筆。

 

成田亨氏の「真実と正義と美の化身」は複製絵画を受注制作販売しています。

 
 

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